ギリシャの何が問題だったのか? その教訓は何か?

ギリシャの財政危機は既に一国の問題に納まらず、EU全体、或いは世界全体の問題となっているが、そもそもギリシャの何が問題だったのだろうか?

実質上ギリシャの財政が完全に破綻した現時点から後知恵で考えれば、公務員の厚遇や財政の粉飾等の個別の問題は多々指摘することができるだろうが、そもそもの問題はやはり財政赤字と国際収支赤字であり、それはギリシャの置かれた状況にあっては表裏一体のものだったと筆者は考えている。


まず対GDP比で見ればギリシャの政府負債が盛大に増えていたのはEUに加入した1980年代であり、むしろ2002年のユーロ導入頃は(高い水準ではあるが)変動としては落ち着いていた。


この対GDP比での政府債務残高水準の落ち着きは高いGDP成長率に支えられたものであり、絶対額としてはどんどん増えていた(以下参照)。 名目GDPの成長が政府債務の対GDP比の伸びを抑制していたわけであり、いわゆる上げ潮派にとっては理想的な状態だったわけである。


しかし、問題はその高いGDP成長率が国全体としての借金&過剰消費によってもたらされたものであり、長期的に維持可能なものではなかったことにある。

以下はギリシャの国際収支と名目GDPの推移であるが、ユーロ導入後、名目GDPは急成長した一方で国際収支の赤字も又急拡大している。


ユーロ導入までのギリシャは財政赤字を積み重ねて、高いインフレ率と通貨(ドラクマ)の趨勢的な減価を実現(?)しているというこれはこれで「通貨安」信者にとっては理想的な状態であったが、それらは相殺されて実質経済成長率は不安定で平均するとそれほど高いものではなかった。 しかし、ユーロを導入したことにより通貨安・高インフレによる実質所得の趨勢的な減価圧力がなくなり、ギリシャ国民は着実に豊かになり、購買力も増大した。


ところが、ギリシャ国民が"額面上"豊かになったとしても、別にギリシャ自体の国際競争力が改善されたわけではなく、当然ながら輸出で稼げる金額は急には上昇せず、結果としてギリシャの国際収支の赤字は大幅に拡大することになった。 つまり豊かになったギリシャが自らが生産し、輸出した製品・サービスの代価として受け取った金額以上に外国から製品を輸入し消費することができたのは債権を国外に売ったからということになる。 又、これは裏を返せば主にユーロ導入国の金融機関や投資家が、為替リスクの無いユーロ建ての高利回り債権としてギリシャの債権を買い進めたという事であり、ギリシャ一国の財政危機がユーロ圏全体の金融危機に繋がる原因にもなったと考えられる。


しかし、結局この外国勢による債権の購入(=外国資金の国内への流入)によって支えられた高経済成長は長期的に維持可能なものではなかった。 そしてこの不安定な高経済成長によって覆い隠されてきた債務問題は、ひとたび財政不安が問題視されたり経済成長が鈍化する見込みが広がると一気に顕在化した。いわばバブルと同じ構図である。 そしてこのリスクの大きさは見かけの高経済成長に覆い隠されていた期間に他国の金融機関も巻き込んで雪だるま式に膨らんでおり、一国で処理できる規模を遥かに超えてしまっていることが誰の目にも明らかになったわけである。


この一連の流れを「そもそもユーロに加入したのが間違いだった」と結論づけることも可能かもしれない。しかしギリシャの経済がユーロ導入によって安定したのも事実であり、もし導入していなければ今より遥かに低い実質GDPしか達成できていない可能性も高かったはずである。 結局後知恵で考えればギリシャはユーロ導入によって得た通貨価値の安定とその安定から得られた借り入れ金利の低下を背景に"経済成長を多少犠牲にしてでも"財政再建を行うべきだったという事になるだろう。 


ここで強調しておきたいのは、ギリシャは今でこそ公務員の人件費の問題などがクローズアップされ、「財政再建をもっと早くすべきだった、それをしなかったのだから破綻して当然だ。」のように論じられることが多いが、高経済成長が続いていた期間はそういった声はそれほど強くはなかったということである。

ユーロ導入以降のギリシャの高経済成長は、経済成長が維持されている間は高インフレを招いたわけでもなければ、金利の高騰を招いたわけでもなく、政府債務残高の対GDP比での上昇も見られなかった。 又、失業率が大きく下がって完全雇用となったわけでもなかった。 つまり「財政をそろそろ引き締めるべき」という分かりやすいシグナルがあったわけではなかったということである。 それでも結局今回のような事態を招くこととなった。


言うまでもなく日本とギリシャの間には異なる点は幾らでも見つけられる。 日本は独自通貨を有しているし、国際収支は黒字であり、自己資本は厚く、外資のリパトリエーションをそれほど懸念する必要も無い。 しかし、インフレ率や金利、失業率などの指標が財政再建を行うべき時期を判りやすく示してくれたりは"しない"という教訓は学ぶ価値があるだろう。 政府債務残高が大きく積みあがっている限り、金利の変動による財政への影響は避けられず長期的、安定的な経済運営へのリスクとして存在し続けることは間違いないはずである。


参照:債務残高の推移等のデータはこちらの雑誌(ギリシャ語)のデータをこちらのサイトでまとめられていたものから引用。