緊縮の痛みと成果について

先日アップした「なぜイギリスは日本型の長期停滞に陥らなかったのか?」に関して午前様から以下のクルーグマンのエントリーを紹介いただいた。

緊縮の痛み,ケインジアン政策の処方 by ポール・クルーグマン
http://urx.nu/bEj9


(景気過熱期以外の)財政再建を目の敵にしていて、その成功の実例など世の中にあってはならないとばかりに各方面に論陣を張っているクルーグマンらしいエントリーではあるが、その論点は

イギリス政府は緊縮をたっぷりやったけれど,そのあとはさらに緊縮するのをやめた.するとそれ以後にイギリス経済は成長し始めたってことになる.これって,緊縮が実は拡張的だってことの証明になるの? 前に使った喩えをまた使うと,野球バットで頭をぶん殴り続けてからやめると,そのうち具合はよくなりはじめる.でも,だからって,野球バットで頭をぶん殴るのがいいことだって話にはならない.

ということらしい。 


まず事実だけを見れば確かにイギリスの財政赤字は2010,11年に急速に改善した後、2012年には停滞している。 基礎的財政収支の対GDP比でみれば2009年の-9.8%と危機的な状況から2011年には5.0%にまで改善した後、2012年には5.6%とやや後退している。クルーグマンはこの後退を強調して、緊縮が停滞したときに成長したのだから緊縮は失敗だったのだと主張したいようだがかなり苦しい主張のように筆者には見える。


そもそも緊縮の一義的な目的は財政再建であり財政不安の払拭であるが、上述のとおり基礎的財政収支の対GDP比は大幅に改善し、4%を超えていた国債金利(10年)は2012年には2%を大きく下回る水準にまで低下した。 緊縮は確かに痛みをもたらしたが、相応の成果もまたもたらしたわけである。

そして2012年からは景気も回復軌道にのった。「さらに緊縮するのをやめた.するとそれ以後にイギリス経済は成長し始めた」のがそこだけ切り出せば事実であったとしても、それは2010,11年に敢行した財政再建の成果があってこそのものだったとも言える。 


イギリスが緊縮へと舵をきった当時は、財政危機に陥っていたPIGS(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン)の拡大版?であるSTUPID(スペイン、トルコ、イギリス(UK)、ポルトガル、イタリア、ドバイ)の一員にイギリスは数えられるような状況であり財政再建は急務だった。そして、そこでキャメロン政権が予想を上回るかなり過激な緊縮策を採用した事が大きな反発を呼んだわけである。 

当時、反緊縮派が主張していたのは不況期の緊縮はさらなる景気の悪化を通じて「死の螺旋」を引き起こすだけで財政再建は成功しないという事であり、またその後遺症は長く続くだろう、というものであったが、結果は不況下であっても緊縮は痛みと引き換えに財政再建をもたらし、又、その達成された財政再建が景気を継続的に抑圧し続ける事も無かった、というものだったわけである。もちろんこの結果が緊縮によって常に得られるとは限らないが、緊縮の目指すべき成功実例としては十分なものと言えるだろう。


そもそも筆者などから見れば、どんなに膨大につみあがった債務でも景気過熱期に増税するだけで痛みなしに乗り越えられるのだとすれば財政均衡なんて気にする必要なんて全く無く、財政規律がぐだぐだな国ほど国民はハッピーになれそうなものだが、それこそ金のなる魔法の木でも持っていない限りそんな馬鹿げた事が起こるとは信じられない。 財政規律がぐだぐだな国の国民は一時的にはハッピーになれても、いずれ痛みを受ける事になるというのが欧州の危機が示唆していることであって、その逆ではないだろう。