2011-01-01から1年間の記事一覧

クルーグマンの「オーストリア学派」批判について

クルーグマンがNYTのブログでいつもの共和党批判を行っているが、今回は返す刀でオーストリア学派をディスっている。 参照: G.O.P. Monetary Madness http://www.nytimes.com/2011/12/16/opinion/gop-monetary-madness.html 和訳:「共和党のトチ狂った金融…

ギリシャの何が問題だったのか? その教訓は何か?

ギリシャの財政危機は既に一国の問題に納まらず、EU全体、或いは世界全体の問題となっているが、そもそもギリシャの何が問題だったのだろうか?実質上ギリシャの財政が完全に破綻した現時点から後知恵で考えれば、公務員の厚遇や財政の粉飾等の個別の問題は…

経済とギャンブルの”必勝法”の違いについて

経済にフリーランチが存在しないと言われるように、一般的なギャンブルでも必勝法は存在しないとされている。 親(胴元)が存在するギャンブル全般に言えることであるが、そういったギャンブルは一回あたりの期待値がマイナスになっており、回数を増やせば増…

ドイツはいかに欧州債務危機を解決するのだろうか?

欧州債務危機問題はまだ出口が見えず、その中でユーロ共同債構想などに反対しているドイツに対する風当たりが徐々に増しているかのように見える。 筆者は現ユーロ体制を今後も長期的・安定的に維持するのであれば、ユーロ共同債のように大国が小国に間接的に…

通貨の「本質的な価値」

ちきりん女史が「通貨制度という虚構のシステム」というエントリーで通貨には本質的な価値はなく、通貨制度は虚構のシステムだ、という説を展開されている。 確かに納得いく部分もあるが、管理通貨制度は世界中で問題は抱えながらも長期にわたってそれなりに…

経済政策でギャンブル("倍掛け")しようとしているのは誰か?

欧州財政危機はいまだ出口が見えない状況であるが、クルーグマンがその欧州財政危機に関して「Boring Cruel Romantics」というエントリーを書いている(邦訳はこちら)。 大筋としてはヨーロッパを一つの通貨、一つの金融政策で扱うことがそもそも最初から問…

クルーグマンが正しくても、TPP参加はやはり雇用を悪化させる

前回はリカードの著作からの引用を基に、TPP参加でどのような圧力が経済に掛かるかを考察した。この考察が正しければ、資本の国家間の移動が容易な状況で外国貿易が拡張すれば、資本の利潤率は上昇する一方で、労働価格は均一化していくことになる。 しかし…

リカードが正しければTPP参加で労働者の実質賃金は下がり、資本家はさらに利潤を増加させる

先日のエントリーでは「(リカードの)比較優位の原理を持って自由貿易を無条件に支持する主張」について批判的に考察したが、実際にリカードがその著書で論じた内容を読むと、その印象はこういった主張をする人々の言説から受ける印象とはかなり異なる。 比…

「ドイツ国債札割れ」の意味と「ユーロ共同債権」「EU条約改正案」について

ドイツ国債の入札が不調に終わったことについて(参照:「波紋呼ぶドイツ国債入札不調」)。 筆者は今回の札割れが即ユーロの更なる危機に繋がるとは考えていないが、その含むところは非常に興味深いと考えている。 多くの識者が指摘するように今回の入札が…

日本に必要なのはホスピタリティ産業をもっと"国内で"売ることではないか?

Chikirin女史の「今、日本で最も時代遅れな団体=「経団連」」というエントリーと、その提案に反論する山形浩生氏の「日本の優位性がホスピタリティ産業、ですって? ご冗談を。」というエントリーを読んでの感想。 まずChiklin女史の経団連についての以下の…

比較優位の原理は正しくても自由貿易で国民が幸せになるとは限らない

TPPに関連して様々な議論が行なわれているが、賛成派の主張には「TPP=自由貿易」とした上で、比較優位の原理を持ってTPPを支持するものが多い。 これに対する反論の多くは「TPP=自由貿易」ではないというもので、筆者もそういった観点から幾つかエントリーを…

混合診療について(追記)

コメント返信用追記。 先日エントリーした混合診療に関して二つ記事について、参照として関連する幾つかのグラフを以下に示す。 グラフは何れも以下のワーキングペーパーからの引用。 「後発医薬品はわれわれを幸せにするか −後発医薬品の経済的側面からの考…

為替介入で投機筋に勝つカンタンな方法

今回は趣向を変えて、筆者が考える「為替介入で投機筋に勝つカンタンな方法」について書いてみたい。 日本の円が安全資産として買い進められているのは、リスクが相対的に低いと考えられているからである。 つまりリスクが上昇すれば円は売られる。 ゾブリン…

混合診療の解禁をゲームの理論っぽい観点から考えてみる

混合診療と国民皆保険制度の関係についてもう少し違う視点、医療取引をめぐる交渉ゲームという視点、で考えてみる。 国民皆保険制度はごく大雑把に言えば健康な人も含めて全ての人から保険料を徴収し、国が一括した上で医療関連企業や医師会などと交渉して対…

混合診療の解禁は国民皆保険制度を如何に壊すのか?

TPPに関しては当初の関税撤廃偏重の議論から、徐々にその他の分野にも関心が広がっているようであり、特に混合診療の全面解禁が議論される可能性があることを政府が認めてからは、その影響についての推進派、反対派双方からの主張が繰り広げられている。 筆…

いっそTPP「協定」より関税の一方的撤廃の方がまだマシなんじゃないの?

昨日のエントリーでは推進派の池田教授のエントリーを基にTPPに反対すべき理由の一つについて述べた。 その中で考察の前提とした関税貿易と自由貿易における国民の効用に関する部分、つまり 関税を互いに掛け合った状態がナッシュ均衡(であり自由貿易がパレ…

池田信夫教授のエントリーでわかるTPPに反対すべき理由

池田信夫教授がTPP推進派として積極的に記事を発表されているが、筆者にはそこで説明されている理論の中にTPPに反対すべき理由の一部が含まれているように感じる。 池田教授の記事は「TPP = 貿易自由化」という側面を主に取り上げられており、「グローバル化…

貿易に勝ち負けは無い? (比較優位について)

最近TPPに関連して、比較優位について言及している記事が目に付くが、その中でよく説明されている「比較優位に基づけば貿易は両者が得をするものであることは明らかであり、貿易に勝ち負けはない」というような話には筆者は違和感を感じる。 筆者は貿易にも…

悪い金融緩和、悪い総需要刺激、悪い経済成長

前のエントリーでは米国における格差の拡大について幾つかのデータを基に考察を行った。 データからは経済成長が格差拡大を伴った様子が見てとれたが、これは不可避的な部分も強いし、そもそもアメリカの再分配機能の問題であり、経済成長自体の問題とは言え…

米国における経済格差拡大の推移

ウォール街で始まったデモは世界に広がりつつあるようである。 現状ではその統一した主張が何なのかわかりづらい面もあるが「We are the 99%」というキャッチフレーズが用いられているように少なくとも「格差」というのが一つのキーワードになっていることは…

税収弾性値について(補足)

もう一点過去の財政関連のエントリーについて補足。過去何度か税収弾性値をベースにした考察を行ったが、その中で、「短期の税収弾性値」と「長期の税収弾性値」は違うという事について記したが、この「短期」と「長期」の意味について若干説明を加えておき…

ドーマーの定理について

前回のエントリーでドーマーの定理(ドーマーの条件)について触れたが、コメント欄での指摘を受けて少しぐぐってみると、この財政の維持可能性についての一連の考察の中で、どの部分が本来の「ドーマーの定理(ドーマーの条件)」でどの部分が追加した前提…

英国は量的緩和拡大に舵を切るのか?

10月3日の保守党(与党)の党大会で英国のオズボーン財務相が演説を行い、その中で英国は緊縮財政と低金利を維持すると表明した。 オズボーン財務相はこの日、保守党の年次会議で演説し、英景気のてこ入れに支出増で対応するつもりがないことをあらためて強…

財政再建の条件について

今回も前回に引き続き、財政再建について考察してみたい。 そもそも財政再建が達成されている状態というのはどういう状態だろうか? もちろん究極的な財政再建は「国債残高=0」という状態だろう。この場合、金利が上がろうが下がろうが財政は全く影響を受…

財政再建の「プランB」

数回にわたって財政についてエントリーを書いてきたが、最後にすこし趣向を変えて財政再建の「プランB」を考えてみたい。先のエントリーでの考察では、国債残高、支出、税収のバランスから財政をみてみたが、財政が現状まで悪化した所からスタートした場合、…

インフレで財政再建は可能か?

前回はやや抽象的な観点から財政の維持可能性について考察してみたが、今回は少し違う観点から日本の財政について考察してみたい。 まず足元の財政を見てみる。 以下は財務省のサイトから引用した2010年度の歳出、歳入(当初予算額)の大まかな分類である。 …

遠くて近い?日本財政破綻への道

財政問題を考えるときの問題の要点は簡単に言えば国債の借り換え・新規発行が持続可能な形で行っていけるかどうかだと筆者は考えている。 自国通貨建て国債であるから、一旦発行した国債が「返済不能」になる可能性は低い。又、全体としてみても積み上げた国…

人口増加率と実質経済成長率

高橋洋一教授がTwitterで以下のような発言をされているのを見かけたので、自分でもExcelで30分ほどかけてやってみた。 データはWorld Bank(http://data.worldbank.org/)からダウンロードし、2000年と2008年の人口と「GDP, PPP (current international $)」…

相対価格と一般物価は本当に別物なのか?

前回のエントリーで相対価格について少し触れたので、ついでに長らく書きそびれていた相対価格と一般物価の関係に関するエントリーをアップしたい。 相対価格と一般物価が完全に別物であるという議論は一部のリフレ派が好んでするところであり、彼らに言わせ…

貧乏人のインフレ率

コメント欄での指摘を受け、政府統計の「勤労者世帯年間収入五分位階級別中分類指数(全国)」を基に年間収入五分位階級別の消費者物価指数データから年間収入五分位階級別の前年同月比のインフレ率及び2005年を100とした物価指数をプロットしてみた。年間収…