労働力人口の増加はアベノミクスのおかげ?
選挙戦が始まり、与党がしきりにアベノミクスの成果を喧伝する一方、ネットなどでは「アベノミクスの成果って景気の自律回復と明確に区別できるほどのものでもないよね」という声が高まっているように感じるが、これに対するアベノミクス支持派の反論で目立つのは「民主党時代も失業率は確かに下がっていたが就業者数も労働力人口も下がっており雇用回復は見かけだけのものだった。しかしアベノミクス開始以降は就業者数も労働力人口も増加に転じ、この時にはじめて真の雇用回復がなされたのだ、」というようなものである。
たしかに失業率は民主党時代からほぼ同一トレンドで下がり続けたのに対し、就業者数や労働力人口は2012年末頃に減少から増加トレンドへと転じており、タイミングだけみればアベノミクス支持派が喜んで取り上げたくなるのはわかる気がするが、その背景やデータをすこし細かく見てみるとそう簡単な話ではない事が解る。
特にこれらの議論で問題なのは雇用回復の過程において失業率が同一トレンドで下落している途中で労働力人口(労働参加率)や就業者数が下落から上昇に転じること自体はそれほど特異な事でもないし、なにか大きな「きっかけ」がいる話でもない、という点が無視されている事である。
たとえばリーマンショックのひとつ前のITバブル崩壊からの雇用回復過程を見ても、似たような傾向を容易に読み取ることができる(下図)。この時も失業率は下落を続ける一方で労働力人口は2004年頃に下落から上昇へと反転している。
また、同じリーマンショックからの雇用回復過程を米国で見てみても、タイミング等違う部分もあるが失業率が下落し続ける中、労働参加率は2015年頃に下落から上昇へと反転している。米国ではリーマンショック直後から大規模な金融緩和を行っており、むしろ2015年末には金利の引き上げを始めている。 「リーマンショック直後から日銀が金融緩和をしっかりやっていれば労働参加率が下がる事などなかったはずだ」というような主張が怪しい事は明らかである。
もちろんこれだけでアベノミクスが成功したかどうかを判断する事が出来ないし、細かく見ればアベノミクス前後で雇用のトレンドが変わった部分も確かに存在するが、いずれにしろアベノミクス開始後(これも怪しいが)にトレンドが反転したんだから、アベノミクスの成果だ! 反転する前(民主党時代)は失業率が下がろうが求人倍率が上がろうが労働参加率が下がっていたんだから、むしろ雇用は悪化していたんだ!!というような単純な話ではないということである。
まあ、成功かどうかをいうのであれば、アベノミクスはITバブル崩壊後に取られた対策と同程度には成功しているとは言えるかもしれないが、あの時代はリフレ派的には白川日銀によって最悪のデフレ金融政策がとられていた暗黒時代だったはずであり、それと同程度の成功というのは受け入れがたいのかもしれない。