英国経済復活への道筋?

先日(22日)、英国中央銀行金融政策理事会(MPC)が行われ、0.5%の政策金利の据え置きが決定されたわけであるが、従来より金利の正常化を主張していたタカ派のセンタンス理事が退任になったことから、何か変化があったのか少し興味を持ってぐぐって見たところ、MPC理事の変更について詳しく説明されている記事をみつけた。


英国金利を決定するMPC理事の「タカ・ハト表」 [2011.6.22]
http://monetoku.com/london/2011/06/mpc.html


センタンス理事の後任は元GSのベン・ブロードベントという方のようで、記事によると中立より若干タカ派という評価のようである。 センタンス理事は超タカ派だったので全体としてみればやや緩和よりになったということかもしれないが、それよりも筆者が興味を持ったのは新理事が以前書いたレポートの中で利上げの必要性を判断する材料として賃金上昇率を重視しているという部分である。

ブロードベント氏が利上げの必要性を判断する材料として使っているのは「賃金上昇率」の高まりです。同氏だけでなく、MPC理事たちの間でも、賃金上昇率の重要性は繰り返し述べられていましたが、ブロードベント氏の理事就任により今まで以上に賃金上昇率の重要性が増すことは確実です。


ちなみに最新(2011年4月分)の賃金上昇率はボーナス込み上昇率+1.8%、ボーナス抜き+2.0%(ともに年率)。同氏が利上げに1票を投じるきっかけとなるであろう「危険ゾーン」となる「+3%」には達していません(データは英統計局より)。


これは賃金上昇率が一定の率(3%)になるまでは金融緩和を続けて景気を下支えしますよ、ということになるのかも知れないがインフレ率が目標の2倍(4%)を軽く超えている中で、賃金上昇率は現在2%程度である。(更に言えば、カウンシルタックス(住民税)などを含み年金や賃金交渉で参考にされるらしい小売物価指数(RPI)の上昇率は既に5%を超えている。)

つまり英国では実質賃金は約3%という高率で下落中ということになる。(RPI-Earningsという指標では年率-3.5%らしい参照 ) 


又、インフレ率はすこし長いスパンで見れば油価の高騰やVAT上げなどの一過性のものが吸収されて少しは落ち着いてくるという見込みであるが、それでも当面3%を下回ることはなさそうである。

それにインフレ率が落ち着いてくるという見込みもどこまで信用できるか分からない。 半年前には「2011年末時点の予測CPI」は1.7%だったのに、最新の予測は4.0%にまで引き上げられている。(ちなみに2010年8月時点の予測は1.2%、11月には1.7%、2012年2月には2.3%、そして5月には4.0%と推移している。)一方でGDP成長率予測(by OECD)は年初の1.7%から1.4%に引き下げられおり、経済回復が予測どおり進んでいないことが伺われる。


賃上げについては失業率が依然として高いままであり、なかなか上がる状況には無いし、仮に少しずつ上がってきても3%を超えれば金融引き締めへと舵が切られそうという事であれば、いつになれば実質賃金が上昇に転じることができるのか全く不透明であり、はっきり分かっているのは当面の間は実質賃金が下がり続けるであろうという事だけである。


デフレ不況下の日本では実質賃金の低下は円を維持しつつ名目賃金の低下と物価の低下がバランスしながらゆっくりと進んだが、英国ではポンドを下落させつつ高インフレ下で名目賃金の低下を伴わず、かつ早足で成されようとしているとも言える。 これを持ってリフレ政策の効果とし、英国経済復活への道筋と言うことは可能かもしれない。

ただしこのプロセスは激しい痛みを伴うものでもあり、イギリスではパブなどがばたばたと倒産している。もちろん緩慢なデフレ下でも倒産する会社は倒産したのかもしれないが、高インフレを利用した短期間での調整がデフレを伴う長期間での調整より良いのかどうかは評価が分かれる所では無いだろうか。

(もしイギリスがこのままスタグフレーションに突入してしまえば話は別で、緩慢なデフレの方が格段にマシという結論になるだろうが、、)