「インフレが人々の消費を活性化する」は本当なのか? (補足)

前回のエントリーで端折った部分にはてぶでつっこみがついていたので少しだけ補足。

charleyMan様

家電とかPCとか自動車とか、どんどん値下げされる状況だと、もう少し待って買おうって思いませんかね?逆にどんどん値上げされる状況なら、早く買っておこうとも。家電量販店でも行けば、普通に聞けますよ。


もちろんこういった場合「もう少し待って買おう」と思う場合も多々あるが、それはインフレ・デフレとどれくらい関係しているだろうか?


高めのインフレに直面しているイギリスであっても家電やらPCやらは発売直後が値段のピークで後はどんどん下がっていく。 そしてその値下がり速度はデフレやインフレの比では無い。今日発売になったPCが来年の今頃に数パーセントしか値下げされていないような状況は全く考えられない。 外付けHDDなどは極端な例であるが、容量あたりの単価で考えればすさまじい勢いで下落してきたし、その傾向は当面続くだろう。 先送りすればするだけ得になるのは間違いないが、そのことと今がインフレかデフレかは余り関係がないだろう。


又、市場には通常、既に値下がりした旧製品とまだ値下がりしていない新製品が並んで売られている。 新製品を待って買うのと値下がりした旧製品を今買うのは時間がずれているだけで基本的には同種の選択である。 確かに好景気の時には値下がりした旧製品ではなく新製品を買う人が増えるかもしれないが、それは「新製品が値上がりしそうだから」という理由ではなく、景気が良いことによって消費が活性化されているからである。


ちなみにもし製品の値上がりの時期・規模がはっきり分かっているなら話は少し変わってくる。 消費税の税率上げのようなケースでは基本的に全ての製品が同時期に同率値上げされる訳で、確かに消費の前倒しを誘う効果はある。 しかし、そういった特殊なケースを除けばどの製品がどのタイミングでどれだけ値段が下がるかといった予測は難しいし、又店によっても大きな差がある。 その中で年率数%程度のインフレ(或いはデフレ)圧力が更に加わってもそれ自体が消費に与える影響がそれほどあるとはとても思えない。 


もちろん景気が悪ければ新製品の値下げ速度も更に早まるだろうし、そうなればそれを見越して購入を先延ばしにする人々も増えるかもしれない。 逆に「景気がよくなりそうだ」という予測が広まれば、販売業者は値下げ速度を緩めるかもしれないし、消費者も「景気がよくなりそうだ」という予測と、それによって「販売業者は値下げ速度を緩めるかもしれない」という予測から購入を早め、結果として消費の活性化に繋がる可能性はある。 

しかしこれはあくまで「景気がよくなりそうだ」という予測についての話であり、「インフレが高くなりそうだ」という予測がこういった連鎖に繋がると考えるのは無理があるように感じる。


むしろ単に「インフレが高くなりそうだ」という予測だけなら、人々は生活防衛の為に緊急では無い支出(=先送りできる支出)を控える傾向が強まるのではないだろうか? 実際にイギリスでは高インフレの中、耐久消費財についてはむしろデフレ傾向にあり、いわゆるバイフレーションの様相を見せている。 これは生活必需品の(賃金上昇率以上の)インフレによって購買力が毀損していることに加え、生活防衛の為に不要不急の支出については抑制していることによるものと思われる。 大体もしインフレ自体が本当に消費を活性化させるなら、幾ら不景気とはいえ過去数十年で最高水準にまでインフレ率が上がったイギリスで小売店がこれだけばたばた潰れたりはしなかったのではないだろうか?