量的緩和終了後の英国にプランBはあるのか?

足下の高インフレにも関わらず今回も英国の政策金利は据え置きとなったが、それを責める声はそれほど大きくはない。 なぜなら現在の状況下で英中銀にやれることは限られているということを多くの人が理解しているからである。 


そもそも英国が量的緩和で行ったことは現在リフレ派が主張している日銀の国債引き受けに限りなく近いものであった。 つまり英国は銀行救済や景気刺激策の為に生じた財政赤字を埋めるために膨大な額の英国債を発行し、一応は市場は介しつつもそれらの多くを次から次へと英中銀買い取っていったわけである。(下図参照。 08/09の発行額は1500億ポンド、09/10は2200億ポンドと共に過去最高)


内閣府サイトより


通常であればこれだけの額の国債を発行すれば金利が上昇するはずであるが、すぐに英中銀が買い取ってくれることが分かっている為、機関投資家も安心して国債を買い進むことが可能となった。量的緩和が財政規律を維持する仕組みである国債市場をゆがめていたと言える。


ただし、あの時点での英国経済はまさに金融崩壊の瀬戸際にあったし、量的緩和に踏み切ったこと自体は正しい判断であったと個人的には考えている(後日の規模の拡大は別として)。 金融不安による一時的な流動性不足に量的緩和のような非伝統的金融政策が有効であることは既にかなりのコンセンサスを得ているはずである。


ただ、この量的緩和の問題点は出口戦略が困難なことにある。


量的緩和を行っている間は、大口の需要源が存在することを背景に国債はある程度順調に消化され続けるだろうが、このようなPrinting Moneyをやり続ければ間違いなくインフレは上昇する。 デフレを脱却するという意味では願ったりかなったりだろうが、インフレが目標を超えて更に上がっていった後の手段は限られてくる。


もしこの時までに景気の本格回復が達成されており税収も自然と増えて財政も改善していれば何の問題もない。 金利を上げるなり、国債を売るなり、あるいは増税するなりして市場から刷りまくったMoneyを景気回復の腰を折らない範囲で回収すればよい。


問題となるのは、景気が十分に回復しておらず、本来なら財政・金融での支援がまだ必要な段階でインフレが上昇してしまった場合である。 もちろんこの場合、税収はまだ回復していない。


インフレを抑制するためには刷りまくったMoneyを政府か中央銀行が市場から回収しなければならない。その方法としては

  • 中央銀行が金融引き締めを行う
  • 政府が財政再建(増税)を行う

が考えられるが、これを両方やっては只でさえ弱い景気はひとたまりもない。

よってこの場合にインフレ抑制の為に考えられる組み合わせとしては

  1. 政府が赤字財政での景気刺激を継続 + 中央銀行は金融引き締めに転じる
  2. 中央銀行が金融緩和を継続 + 政府は財政再建を実施

となるが、現実的には(1)は機能しない。 財政赤字を続けるためには国債の大量発行を続ける必要があるが、中央銀行が金融引き締めに舵を切れば、中央銀行と言う大口需要が消滅した国際市場で思うように国債を発行し続けることが困難となるからである。


よって残された手段は(2)の金融緩和の継続+財政再建 になる。

しかしこの手段は国民にとってはそれほどハッピーなものとはならない。金融緩和が継続されればインフレ抑制効果はそれほど期待できないし、財政再建は景気回復の足を引っ張り、増税や社会福祉の削減、公務員のリストラ等の直接的な痛みを伴うものである。 英国ではストやデモが頻発しているし、今月末には過去最大級の公務員ストも予定されているらしい。


予想以上の反発と経済の弱さに英国政府が財政再建の手綱を緩めるのではないかとの憶測もあるが、それが解決につながるのかどうかは不明である。ただ量的緩和という強力なカードを切った英国に残されたプランBはそれほど多くはないことだけは確かである。


(追記)
単なる金融緩和ではなく量的緩和を再開しろという意見も一部にはある。 プランC、或いはウルトラCといったところか。

主にこれを主張しているのがリフレ政策を支持し、日銀の政策を批判し続けてきたMPC理事のアダム・ポーゼン氏である。 インフレ率が5%に届こうというのにまた量的緩和?!という気もするが、氏によれば金融政策は足元のインフレ率ではなく2年先を考えて行わねばならないらしい。

しかしそれを言うなら既に量的緩和が始まってから2年以上経ってるし、量的緩和が終わってから数えて約2年後になる2011年末でも4.0%と目標の倍のインフレ率が予測されている。 そのような状況下で量的緩和を復活させたら、いつ目標の2%インフレに戻ってくるのだろうか? この人の言うとおりにしていたらいつまで経っても「2年後」が来ない気がする。