住宅賃貸市場の「需給」について

同じテーマのエントリーが続いてしまったが最後に以下のコメントについても考察を加えておこう。 (赤線は筆者)

住宅価格が下がるなかで家賃が安定的なのは、それまでの家賃が「安すぎる」状態から適正な状態に戻っていってるだけ、という認識は、賃貸市場での空室率上昇を考えれば無理がある。家賃に何らかの下方硬直性があるため、あるべき水準まで下がりにくく、バブル崩壊から現在まで「高すぎる」状態になっている考える方が自然。

そもそも、新規参入者の有無とは関係なく空室率が高まっていってるなら本来家賃は下落してもいいはずである。新規の住宅供給が増えないから下がらないというのではない。既存物件の需給を一致させるために賃料が下がる、ということが十分に起きていない

要は「本来であれば家賃が下がることで「需給の一致する価格水準」になるべきなのに家賃が高止まりしたまま空室率が上昇しているのだから、家賃が下がるべきところで十分に下がっていない=下方硬直性があるんだ!」 というロジックであると思われる。


まず「空室率上昇」についてであるが、確かに賃貸の「空室率」も、住宅の「空家率」も全体で見ればバブル崩壊以降上昇している。 よって単純に「需給」という見方を持ち込むのであれば、空室率が上昇している時、つまり需給が悪化している時、に家賃が「安すぎる」なんてことは無理があるという考えはあるだろう。


しかし、もとの文中でも軽く触れたが、住宅に関してはこのような単純な「需給」的見かたが当てはまらないと筆者は考えている。(というか筆者は住宅以外においてもそんな単純な「需給」至上的な見方がはてはまるものは現代ではむしろ少ないと考えているが)

この場合、その理由は難しいものではなく、空室率が賃貸市場における需給を表しているとしても"新規参入者の有無とは関係なく"「既存物件の需給を一致させる」ような価格水準なんてものは存在しない、なぜなら既存物件の数が人々が必要とする数(≒世帯数)を上回っていれば、価格水準がどうなっても「既存物件の需給が一致」したりはしないという物理的な制約があるからである。(まあ、細かく見れば例外的なケースもひねり出せるだろうが、)


また、一点付け加えるなら、賃貸の「空室率」も住宅の「空家率」も上昇しているのはバブル崩壊以降の特徴というわけではない。 
以下のサイトのデータを見る限り、両者ともバブル以前から基本的には右肩上がりに上昇し続けている。 そして、もちろん空室率、空家率が右肩上がりに上昇し続けたからといって住宅価格や家賃がその間下落し続けたわけではない。 よって空室率が高まっていってるなら本来家賃は下落してもいい「はず」という考えはこれらのデータにマッチしない。


賃貸住宅の空き室率推移をグラフ化してみる - garbagenews
http://www.garbagenews.net/archives/903091.html


住宅の空き家率、13.1%で過去最高に - garbagenews
http://www.garbagenews.net/archives/900956.html



では住宅賃貸市場の今後はどうなるだろう。 日本の空室率、空家率は人口動態を考えれば今後もほぼ間違いなくどんどん上昇し続ける。このことは住宅価格・家賃にとってどういう影響を与えるのだろうか?


資産としての住宅地の実質価格は長期トレンドとしては下がり続ける可能性が高いのではないか。 一方で、家賃は住宅地の実質的な資産価値が下がり続けることによるキャピタルロスをカバーできるだけのインカムゲインが期待できるレベルにまで住宅地価格が下がるまでは余り変わらないだろう。 一旦その状態になれば、今よりは住宅地価格の下落が家賃の下落につながりやすくはなるはずであるが建設費・管理費等考えると「連動するようになる」とまではいかないだろう。

もちろんこれは全体として、そして長期トレンドとして、の話であり、局地的には上昇する地域も現れるかもしれない。このまま格差が拡大し続ければ一部の高級住宅地の価格が高騰し、全体平均を押し上げる可能性もなくはないだろう。 また、現時点の住宅地の価格水準が既に安すぎる所まで落ちている可能性も否定できない。 キャピタルゲイン・ロスを見込んだ投機的な取り引きがある場合、その価格水準は適切な価格水準を通り越して一方向へと偏りがちになる傾向があり、既に「逆バブル」のようになっている可能性も有る。 

ただいずれにしても人口動態を考えると空家率が大きく減少していくような状況は考えにくく、長期的には住宅地価格の下落に引きずられて住宅コスト負担は徐々に下がっていき、結果として日本の実質可処分所得の底上げに寄与することになるのでは無いかと筆者は考えている。