日本のインフレ率を少し底上げする簡単な方法

もし日本のインフレ率をどうしても底上げしたいのなら簡単な方法がある。 それはガソリンに掛かる税金を減税する(注1)か、或いは従量課税から従価課税にすることである。


現在、日本ではガソリン税は従量課税となっており、その課税額は暫定税率分も含め1リットル53.8円である。 これは世界的に見てもかなり高額な部類であるが、結果として原油価格の上昇がガソリン価格の上昇へと繋がる割合を減じる効果を持っている。 単純に税金以外が全て原油価格と仮定するとしてもL100円をベースに考えると、原油価格が2倍になったとしてもガソリン価格は1.5倍にしかならない。 しかも日本ではセルフのスタンドはまだ少なく、ガソリン価格に占める原油価格そのものの割合はもっと低いため、ガソリン価格の上昇率は原油価格の上昇率よりもかなり低くなる傾向があるためである。

一方で例えばアメリカでは現時点でガソリン価格に占める税金は約10%程度であり、原油+精製価格の割合は80%を超えている。 つまり原油価格の上昇がダイレクトにガソリン価格の上昇に繋がる状態になっているということである。
 

実際に過去10年間程のガソリン価格の推移をみると日本のガソリン価格が約1.5倍程度になっているのに対し、アメリカのガソリン価格は2.5倍以上に値上がりしている。


物価指標のうちいわゆるコアインフレには食料品やエネルギー価格は評価に含まれない場合が多い。 これらは一時的な錯乱要因の影響を受けやすい為、そういった短期的に大きな変動を伴うものをインフレ率の評価から外すという目的で従来より行なわれている手法であるが、近年のエネルギー価格の推移を見るとエネルギー価格の上昇率についてはその他のインフレ率を上回る趨勢的なトレンドが存在するため、生鮮食料等と同列に扱うのは無理がある。 実際に多くの国の近年の実績を見るとコアインフレ率(除くエネルギー価格)はインフレ率と比較し、ブレが小さくなるだけでなく殆どの期間で有意に低くなっている。


また原油価格の上昇は直接的にガソリン価格を上昇させるだけでなく、間接的に運搬が必要なあらゆるものの価格を底上げし、さらに食料等の値段にも強い影響を与える。 そのため、その影響は単に「ある品物の相対物価が上がっただけで一般物価とは関係ない」というような話には納まらない。 よって、もし物価指標として「エネルギー価格を含まないコアCPI」を選んだとしても、原油価格の上昇がガソリン価格の上昇に直結するようになれば、間違いなくインフレ指標は一定割合で底上げされるだろう。


で、そのような形でインフレ率が底上げされたとして、それが経済の後押しになるかといえばそれはかなり疑問である。趨勢的なインフレ率の底上げ要因にはなるが、それ以上でも以下でもない。 むしろガソリン価格の変動が今より激しくなる事は将来のコストに対する不透明さを増し、消費を抑制する方向に働く可能性もある。 

結局(指標としての)インフレ率を簡単に底上げする方法はあっても、経済を簡単に底上げする方法などどこにもないということだろう。


[追記]
ちなみにこれだけガソリン価格が上昇している米国でそれが強いインフレ圧力になっていないのは、近年シェールガス革命によってガス価格が大幅に下落したことが一つの要因と考えられる。 この革命がなければエネルギー価格の上昇はかなりのインフレ圧力となって米経済に影を落とした可能性が高い。 又、その極端な低価格(欧州の1/4 〜 1/5!) は米国のLNG輸出規制によって保持されている面もあり、規制が解除されれば少なくともLNGの原料ガスとしての適正水準までは上昇し、米国のインフレ率を高めることになるだろう。


[注1] もちろん減税の場合は一時的にはインフレ率は下がるが、翌年からは原油価格の上昇がガソリン価格の上昇に直結するようになり、長期的にはインフレ率は底上げされる。