人口増加率と実質経済成長率
高橋洋一教授がTwitterで以下のような発言をされているのを見かけたので、自分でもExcelで30分ほどかけてやってみた。
データはWorld Bank(http://data.worldbank.org/)からダウンロードし、2000年と2008年の人口と「GDP, PPP (current international $)」から、人口増加率と経済成長率を計算し、散布図を作成した。
確かに全ての国をプロットすると強い相関は見られない。
しかし、このデータにはあらゆる国が含まれており、日本で人口が低成長の原因(制約)になっているかどうかという点については規模や経済構造等から比較の対象として適さない国も多い。そこで、比較の対象をいわゆる先進国に限るため、OECD加盟国でかつ2000年時点で一人当たりGDPが20,000ドルを超えていた国のみを抽出し、同様に散布図を作成した。
いかがだろうか? 筆者の目には一定の相関があるように見える(ちなみに相関係数は0.775)。
少なくとも日本がトレンドから大きく外れているようには見えないのではないだろうか?
抽出した国は以下の22カ国。G7をはじめ、主だった先進国はほぼ含まれている。
New Zealand, Spain, France, Italy, Japan, Finland, Germany, United Kingdom, Australia, Belgium, Sweden , Canada, Ireland, Austria, Denmark, Iceland, Netherlands, Switzerland, Singapore, United States, Norway, Luxembourg
一方で日本より人口増加率が低かったのはWBのデータでは以下の18カ国で殆どが旧東欧諸国である。
Ukraine, Montenegro, Bulgaria, Latvia, Romania, Lithuania, Belarus,Russian Federation, Serbia, Estonia, Moldova, Hungary, Poland, Georgia, Germany, Armenia, Croatia, Slovak Republic
つまり高橋氏の指摘は(先進諸国の中で見れば人口増加率は実質経済成長率の制約となっているが、)旧東欧諸国は日本よりも人口増加率が低いのに実質成長が高いのだから、日本が人口のせいで低成長というのは怪しい、ということになる。 筆者には先進諸国のなかで日本だけが人口の制約から逃れて、先進諸国のトレンドを大きく乖離して東欧諸国のような経済成長を達成できると考えるほうが無理があると思うがどうだろう?
又、高橋教授はその後、
と説明されており、低人口成長がマイナス要因なのは認められている。ただ、資本と技術進歩で挽回可能というのが本当にデータから言えるのか(特に日本について)、という新たな疑問が生じる。
高橋教授が日本と比較した上記の旧東欧諸国の実質経済成長率はGDP(PPP)で見れば年率10%程度であり、先進諸国でそのような高い実質経済成長率を達成した国は存在しない。これは発展途上国が資本と技術進歩で高い実質経済成長率が達成できたからといって先進国が同様のことをできるわけでは無いということではないか?
以上をまとめると、この図は
- 全ての国を対象に考えれば人口増加率は実質経済成長の主要な要因となっていないことを示している - YES
- 日本という先進国において人口が低成長の理由とならないことを示している - NO
- 日本で人口が低成長圧力となるとしても資本と技術進歩で挽回可能であることを示している - NO
という事である。(3番目については挽回可能かもしれないがこの図はそれについては何も示していないということ)
例えるなら
足の遅い一般人に正しい走り方を教えれば100m 1秒くらいはタイムが縮められるかもしれないが、世界のトップランナーがタイムを縮めるには全く違うアプローチが必要であるし、その場合には身長や足の長さなど、足の遅い一般人レベルでは強い制約にならない要素もトップランナーには大きな制約となりうる。足の遅い一般人も含めて身長が足の速さの要因にならないという散布図を作っても、トップランナーが何をすべきかという指標にはならない。
というところか? 以前にも書いたが高橋教授の説明は明らかな嘘ではないものの、わざとミスリーディングを誘っているようなものが多すぎるんじゃないだろうか。
(青字部分は追記)
[追記]
ちなみに、以下のエントリーでは同様の考察を人口増加率とインフレ率の間で行ったが、同様に先進国と発展途上国を分けると相関がみられた。
飯田泰之准教授「人口減少」責任論の誤謬 についての考察 (1)
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20101011/1286799930