先進国の人口成長率と物価上昇はやっぱり関係あるんじゃないか?
飯田准教授が、白川総裁による先進国の人口成長率と物価上昇の関係についての発言(「白川日銀総裁:日本の人口動態の変化が成長率に影響」)を受けて、両者をプロットしたうで、
なんだか最近「これ以上金融政策に出来ることはない」というためならなんでも使うという感じになってきていてイヤな感じだなぁ.白川氏の発言自体もあまりにも根拠が薄弱なのでいろいろ言いたいけど,それ以前調査統計セクションの人間はもう少ししっかりと総裁をサポートしないとダメなんじゃないかなぁ.
http://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/20120530#p1
と結論付けられている。
確かにどうやっても飯田教授の作ったプロットでは、人口増加率とインフレ率の間に正の相関を見ることができないが、こういう場合は「イヤな感じ」だとか言う前に、とりあえず自分の作ったグラフを疑うべきでは無いのだろうか?
白川総裁が実際に参照にしたグラフは分からないが、筆者が2年ほど前のエントリーで同様の観点から作成したグラフでは、先進国間では人口成長率(予測)とインフレ率の間に正の相関があるように見える。
ちなみに、先進国から外れた国(発展途上国)をプロットしてみると以下のようになり、こちらは逆に負の相関があるように見える。
飯田教授のグラフとの違いは、先進国を「一人当たりの実質GDPが高い国」として分類したことと、インフレ率にある特定の年(2000年)のものをとり、その時点での人口成長率(予測)としてそれに続く10年間(2000年から2010年)の人口成長率を用いたこと。
同じ白川総裁の発言の中で、なぜ人口動態とインフレ率が関連するかについて
さらに、「すう勢的な成長率の低下は、今後さらに高齢化が進むと予想される人口動態の下で、人々の中長期的な成長期待を低下させ、家計の恒常所得を下押する可能性がある」と指摘。「人口動態の問題は当初はあまり意識されず、ある段階から強く意識されるようになった」とした上で、「その段階で、将来起こる成長率の低下を先取りする形で、需要が減少し、物価が下落する一因となった」と述べた。
と述べられているが、人口動態によって将来起こる成長率の低下の先取りとして物価が下落するという経路を考えれば、ある特定の時点のインフレ率を考えるときに、将来の成長率の低下予測に関連するものとしてそれに続く期間の人口成長率を取るのはおかしなことでは無いだろう。(人口動態の予測はそれほど難しいことでなく、実際に2000年時点で現在の人口動態がある程度予測されていたと考えることが可能)
飯田教授に「もう少ししっかりと総裁をサポートしないとダメなんじゃないかなぁ」と言われた日銀の調査統計セクションは恐らくもっと洗練された手法(或いは日銀が拘っている生産年齢人口にからめた手法?)で、こういった傾向を摘出しているのではないかと筆者は考えているが、こちらもいずれ詳細が分かれば考察してみたい。
[追記]
ちなみに先進国と後進国の間で相関が正・負で異なることについては、先進国は供給能力過剰の経済であり、人口成長率が需要の伸びに繋がって需要不足を解消してインフレに繋がっているのに対し、発展途上国は相対的に供給能力不足であり、人口成長率が供給の伸びに繋がって供給不足を解消してインフレを押し下げているのでは無いかというのが当時の考察の結論だった。
[追記]
筆者が以前のエントリーで示した図では、同様の傾向(インフレ率と人口成長率予測が先進国において正の相関、発展途上国において負の相関)が1990年、2005年のデータで作成しても見ることができた。 1990年の図では先進国グループの方に低人口成長率、高インフレの国が数カ国みられるが、これらはフィンランド、イタリア、スペイン、スェーデン、英国、アイスランドであり、これらの国は全てその後「インフレターゲット」を採用してインフレ率を低い水準まで押さえ込むことに成功しており、当時の高インフレはより貨幣的な側面によるものだったと考えられる。