飯田泰之准教授「人口減少」責任論の誤謬 についての考察 (2)

前回に引き続き「人口減少」責任論について、

前エントリーでは2000年の消費者物価変化率についてその人口成長率見込みとの相関を一人当たり名目GDPの上位国と下位国に分けてプロットしてみたが、同様のプロットを1990年、及び2005年についても作成した。 (但し2005年については人口成長率見込みに10年間で無く5年間(2005-2010年)の人口成長率を使用。)




これらグラフの比較から一人当たりの名目GDP上位グループにおける人口成長見込みと消費者物価変化率の関係については以下の3つの傾向が(明らかとまでは言えないものの)ある程度見て取れそうである。

  • 人口成長見込みと消費者物価変化率の間の相関については(ある程度)共通して見られる。
  • 但し1990年については左上(低人口成長率x高消費者物価変化率)へ外れている国が多い。
  • 1990-2000-2005年と年を経るごとに全体として物価上昇率が下がってきている。

1990年のグラフにおける(A)グループはフィンランド、イタリア、スペイン、スェーデン、英国である。 アイスランドも含め、これらの国は全て「インフレターゲット」採用国であり、2000/2005年のグラフではインフレをマイルドなレベルまで抑えることに成功している。 またその他の国々もGDP上位、下位問わず、一部の国を除きインフレ抑制に成功してきており、インフレについて言えばこの15年間で制御方法が確立されてきていると言えそうである。 

但し、その例外としてロシア、ベネズエラがあげられる。 ロシアについては人口が減少してもデフレになるとは限らない実例として挙げられることが多いが、全体の傾向からいけばロシアの方が例外(恐らくは悪いほうの)であり、日本が全体的な傾向から外れている訳ではなさそうである。 (+ロシアは世界最大級の原油・ガスの輸出国であり、実質成長率の高さは原油・ガス価の高騰によるところが大きい点も比較の際には考慮する必要がある。)


次に以下の2種類のグラフを作成し、豊かさの指標の一つと考えられる一人当たりの実質GDPの成長率と以下のファクターの関連性について検証した。

左: 人口増加率 x 一人当たりの実質GDP成長率 (実質GDP成長率/人口成長率)
右: 消費者物価変化率 x 一人当たりの実質GDP成長率 (実質GDP成長率/人口成長率)





微妙な結果ではあるが、人口増加率及び消費者物価変化率と一人当たりの実質GDP成長率の間にははっきりした相関関係は認められないようである。

一方で1990年と2005年を比較すると2005年のグラフでは上位グループの一人当たりの実質GDP成長率が頭打ちになり、後続グループとの差がはっきりしてきているように見える。 2005年時点で一人当たり実質GDP成長率が3%を超えている上位グループ国はアイスランド、アイルランド、クウェートの3カ国だけである。(*1)


最後にその他の国についてもデータがあるだけプロットしてみた。 全体として低インフレ化(インフレ抑制の成功)が進んでいるのがはっきりと分かる。 


1.アイスランド、アイルランドは金融を中心に奇跡と呼ばれるほど驚異的な成長を遂げてきた国であり、表の上でも他国と違うパフォーマンスを見せているが、両国とも金融危機により現在国家破綻の危機に面している。ちなみにルクセンブルグ等幾つかの国はデータ不足の為プロットされていない。