飯田泰之准教授「人口減少」責任論の誤謬 についての考察 (1)

以前に当ブログで2回にわたって人口減少とデフレについてのエントリーを書いた(人口減少とデフレについて (1) (2))が、VOICEの10月号に飯田泰之准教授による[データで斬る“俗論・通説”]「人口減少」責任論の誤謬 という記事が掲載されていたことを「keiseisaiminの日記」さんの9月27日のエントリで知った。

残念ながら私が今住んでいるところではVOICEが簡単に買えないため内容を確認できないのだが、「keiseisaiminの日記」さんのエントリによると以下のような「データ」により「人口減少」責任論の誤謬 を指摘されているようである。

飯田泰之准教授はVOICE10月号で人口減少による経済停滞論に苦言を呈している。

人口減少論の筋が悪いのは

すでに始まってしまった人口減少を、ここ数十年で反転させることはできない。誰のせいかさえはっきりしないため、積極的な反論を受けにくい点、くせ者である。

と述べている。


上の図を紹介し、人口減少=経済停滞ではないと示している。

日本は先進国で事情が違うという点に関しても、シンガポールはすでに一人当たりGDPでは抜かれているし、韓国にも2020年ころに追いつかれることを根拠としている。

http://d.hatena.ne.jp/keiseisaimin/20100927/1286424012


人口減少を簡単に反転させることが出来ないこととそれに責任があるかどうかは本来無関係であるはずであるが、そのあたりのニュアンスは実際の記事を読まないとわからないのでおいておくとして、それよりも気になったのはデータのほうである。 労働年齢人口の減少と経済パフォーマンスとして減少率ワースト3のブルガリア、日本、韓国と、その他の人口減少国としてシンガポール、ドイツ、中国が上げられている。


以前の当ブログでのエントリは

「資本が十分に蓄積した結果、需要サイド、特に内需の伸びに経済成長が制限されるようになった先進国に於いては総人口成長率(見込み)の鈍化・減少は構造的な需要減・供給過多をもたらしデフレ要因となる」

というある意味ごく単純な考え方に基づいたものであったが、記事のデータは供給(生産)サイドの能力を示していると思われる「労働年齢人口」によって対象国を選んでおり、選ばれた国も、上記の前提に当てはまらない国が多く、本当にデータで日本に於ける「人口減少」責任論が「斬られて」いるのかどうか良くわからない。 


そこで国際貿易投資研究所のサイトにあったマクロ経済統計データをお借りし、人口成長率とインフレ率について以下の手順でデータを摘出しその関係を見てみた。

  • 基準年を2000年とし、横軸(人口成長率見込み)を「2000−2010年人口成長率」に、縦軸(インフレ率)を「2000年消費者物価変化率」とする。
  • 資本が十分に蓄積した先進国として2000年時点での一人当たり名目GDPの(データのある)上位20カ国を選定。

以下がその結果である。 全体としてはかなり強い相関を示しているように見えるが如何だろうか? 

ちなみに右下(高人口成長率-低消費者物価変化率)に外れている(A)はシンガポール、左上に少し外れている(B)はイギリス、ドイツ、ベルギー、フィンランド、オランダ等の欧州連合加盟国(UK以外はユーロ圏)である。

シンガポールは輸出依存度が200%近くある典型的な外需依存国であるし、ユーロ圏(特に地続きの国々)についてはインフレ率はその経済圏としての性格上個別の国の事情に関係なく同水準のインフレ率を示す傾向にあるため、これらのユーロ圏の国が比較的「低人口成長率x中消費者物価変化率」を示しているのはその影響を受けてのものと推察される。

ちなみに2000年の一人当たり名目GDPの上位50カ国の残りの国(データがあった24カ国)を同様にプロットしたのが以下のグラフである。 こちらは逆に人口増加率の低い国が高い消費者物価変化率を示している。 一つの解釈としてはこれらの国々では供給サイドが依然経済成長率を制限しており人口成長率の低い国では供給不足が要因のインフレが発生しているといえるかもしれないが、個別に見ればこの「低人口増加率x高物価成長率」グループの殆どが旧東側の国々であり、それらを除くとこのトレンドは弱くなるため単純に一般化は出来ないかもしれない。


他にももう少しプロットを作ったので(2)に続く、、


(追記)
人口減少とGDPの関連についてのエントリーをブログ検索にてざっと調べた所、「himaginaryの日記」さんの2009年9月19日のブログでそのものずばり「人口とGDP」というエントリーがあり、こちらはある時点での複数の国の比較ではなく、日本の過去の実績を追って総人口ベースの名目GDP予測値と就業人口ベースの名目GDP予測値の実績との差からどの時期に供給サイドから需要サイドへと名目GDP成長率の制限が移行したかについて考察されており、非常に興味深い。 

大雑把に言って、総人口は経済における需要、就業人口は供給を表すものと解釈できる。すると、以上の分析から、以下のような考察が得られる(もちろん、イン・サンプルの予測値による考察という制約付きであるが)。


1973年の石油危機から1990年のバブル崩壊までは、就業人口ベースの名目GDP予測値は、実際の名目GDPを大きく下回った。一方、総人口ベースの名目GDP予測値は、それほど実際の名目GDPと乖離していない。これは、この期間は供給に比べて需要が大きかったことを示している。事実、この期間は多くにおいてインフレが問題になった時期であった。

1990年のバブル崩壊を機に、就業人口ベースの名目GDP予測値が実際の名目GDPを上回った。これは、経済が需要過剰から供給過剰の体質に転じたことを示している。従って、その後は雇用の過剰、そしてデフレが問題になるようになった。しかし、それでも1997年の金融危機までは、そのデフレ圧力が明確化するには至らなかった。

http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20090919/population_and_gdp