原油価格急落の原因は?

2014年半ば以降、原油価格の下落が著しいが、その原因についてMarketHackさんで「原油価格75ドル割れを巡る迷信 シェールが成功し過ぎているからこそ、価格崩壊が起きている」というエントリーが掲載されていた。


その概要を抜粋させてもらってざっとまとめると

  • 原油価格(WTI)が一時75ドルを割れるほど下落したが、その原因は巷で言われているように「世界の景気が悪いから」ではなく、アメリカにおけるシェールオイルの増産が原因。
  • アメリカはリーマンショック後にガス価格が急落して以来シェールガスからシェールオイルへとターゲットを変えて原油生産をムチャクチャ増やしたので、輸出できない原油が国内で余ってしまった。(現在、アメリカでは付加価値をつけずに原油をそのまま輸出することは原則禁止されている=これはいずれ法案改正される見込み)
  • 逆に世界全体で見ると原油の需要と供給のバランスはそれほど崩れておらず、ここ数年の実績を見ても、特に消費は落ち込んでいない。
  • サウジアラビアはこれまで節度ある生産を行ってきたが、米国のシェールオイル業者を虐め、また電気自動車などの代替燃料への消費者の嗜好のシフトを許さないために、敢えて増産することを決めたことも要因の一つ。

というところだろう。

説明されている内容だけを見ればそれなりの説得力があるようにも見えるが、原油価格がなぜ急落したのかについての肝心の部分はおそらく間違っている。 
そう筆者が考える理由を一言でいえばイギリスの原油価格(Brent Oil Price)もアメリカの原油価格(WTI)と歩調をあわせて大きく下がっているからである。  広瀬氏が言うようにアメリカ国内の原油の需要と供給のバランスが問題であり、かつ世界全体で見れば原油の需要と供給のバランスが崩れていないのだとすれば、イギリスの原油価格(Brent)が米国の原油価格(WTI)とここまでパラレルに下落する理由がないはずである。


(http://www.oil-price.net/)

それでもシェールオイルの開発を通じた米国の生産増が世界の原油価格に与える影響については全くないとは言えないものの、原油ほどではないに他の資源価格の下落も生じている事から、やはり原油だけの需給バランスで考えるには無理があるだろう。


では何が原因なのかといえば、筆者はその大元は米国の金融緩和の縮小だと考えている。

足元だけをみれば、原油価格は確かに急落しているが、もともと資源価格はリーマンショック後の米国の量的緩和の拡大(QE1,QE2)と連動して高騰した経緯があり、水準的には巻き戻っているだけとも言える。(「米国量的緩和とエネルギー・食料価格のわかりやすすぎる関係について」)

量的緩和の縮小は、コモデティの先物相場で生じていたバブル的なものに対して影響を与えると同時に、ドル安相場の終焉(ドル高への回帰)を促してドル建てで見た資源価格への押し下げ圧力となり、更には発展途上国市場への悪影響を通じて世界経済の減速圧力にもなる。全て足元の需給と関係なく原油価格(ドル建て)を引き下げる方向に働くわけであり、いずれも現在の原油相場の急落を進める要因となりうるということになるわけである。


最後に相場の下落率が原油において特に大きくなっている事についても考察しておくと、こちらについては広瀬氏が指摘している近年の米国におけるシェールオイルの増産やサウジアラビアの方針が与えている影響は大きいだろう。 結局の所、一部の人間でやりとりしている株や土地などと違って原油などのコモデティは世界規模で見た需給が緩みすぎればそれ以上のバブル拡大は難しくなるわけであり、その事がQE1,QE2くらいまでは歩調をあわせて上昇していた株価や地価に対してコモデティ価格がQE3あたりで置いていかれた要因であると筆者は考えているが、シェール革命は間違いなく世界的な需給に影響を与えるほどのインパクトがあったし、サウジアラビアもいまだに一国で世界的な需給に影響を与えられるほどの存在であるということであろう。