為替トレンドはこれからどちらに向かうのか?

先日のエントリーでは常に「もっと円安を!」と叫び続ける円安中毒な人はともかく、普通に見れば円安はかなり進んでおり、実質実効為替レートで見れば1985年のプラザ合意後の最安値圏内に既に突入していると指摘したが、とりあえず足元では急速に進みすぎた円安ドル高は調整局面を迎えているようである。


これをもって「やはり為替水準は円安になりすぎていた!」と言う事も可能かもしれないが、もちろんそれほど簡単なものではない。 結局のところ、為替は常に両方向への圧力を抱えており、それは歴史的な円安水準にあるときでも同じであり、もとの水準へと回帰する圧力と共に、更に円安へと落ち込んでいく圧力もまた存在する。 今回はこの歴史的な円安水準を更に円安へと動かす可能性のある要因について考察してみる。


まず、現在の為替水準が歴史的に見ればかなり円安のほうに振れている事を二つの図で確認しておく。 一つは前回も示した実質実効為替レートの推移を示しており、一つはドル円の購買力平価に基づく為替レートと実勢レートの推移を示している。 実質実効為替レートはプラザ合意後最安値水準になっており、購買力平価に基づく為替レートとの比較でも、輸出物価PPPから円安方向へと乖離し、プラザ合意後ほとんど上に抜ける事がなかった企業物価PPPのラインを更に上に抜けようとしている。



「社会実情データ図録」様より(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5072.html


「国際通貨研究所」様より(http://www.iima.or.jp/research/ppp/


一方、現状が歴史的な円安水準であるからといって円高に戻る必然性があるという訳ではない。 今回の為替の巻き戻しも「円安・米株高トレンドは鉄板だぜ!」みたいな感じで踊っていた一部の一般投資家(投機家?)はがっつりやられたようだが、結局のところトレンドが反転したとかそういう話ではなく急激に進んだドル高トレンドへの一時的な調整に過ぎないようにも見える。 2012年末以降の円安ドル高トレンドが始まってからでもこういった調整は何度か起きており、今回が初めてというわけでもない。 



「Yahoo finance」様より


で、本題の今回の調整が終わった後の為替の行く末を考えると、上述の通り水準的には既にかなりの円安水準であり、そろそろ巻き戻ってもおかしくないという見方もある一方で、更に円安が進むのではないかと懸念される要素も複数存在する。 


まず、一つ目は米国の利上げが想定以上のペースで進むケース。 直近の急激なドル高やその後の反落は米国の景気に対する見方が完全には定まっていない事を示唆しており、依然として利上げがどのように進んでいくかは予断を許さない状況と言える。 利上げペースが予想を上回れば短期的には円安に振れるだろうし、逆に大きく遅れるようならもう少し大きな調整(円高ドル安)が行なわれる事になる。 更に言えば、米国で高騰してきている資産価格がバブルとして弾けてしまえば、リーマンショック後に逆戻りで再び円の高騰も予想されるわけで、ドル円レートに対して大きな影響を持っているのは引き続き米国の景気とそれを受けたFRBの金融政策の成り行きという事になるだろう。


二つ目は逆に黒田日銀が量的緩和第二段をぶちかますケースで、最初の時ほどの威力があるかどうかは不明だが、その規模によってはある程度の影響は期待できるだろう。


三つ目は現状の水準が歴史的な円安水準ではあっても現状の日本のファンダメンタルズが更に弱く、更に安い為替水準が適正水準であるケース。 コモデティ価格の高騰はその殆どを輸入に頼っている日本のファンダメンタルズを確実に弱めているし、大企業を中心に工場を海外へと移転してきたことも結果として円安に対する反発力を奪っている。 リーマンショック後の為替相場はいわゆる金融相場になってしまっており、ファンダメンタルズが為替相場に直結しているわけではないものの、やはりファンダメンタルズが潜在的に弱っていれば、円安圧力になるはずである。


そして最後はテールリスクに属するシナリオという事になるのだろうが、財政破綻リスクの高まりによって円の投売りが行なわれる可能性も完全には無視できない。 日銀が巨額の国債を購入し続けても今のところ表立った弊害が出ていないのは結局のところ流動性の罠下にあるおかげであり、永久に続けられるわけではない。 流動性の罠を抜けた後も同じような国債の買い増しを続ければ、インフレの高騰+円の暴落を引き起こす事態になる可能性もないとは言えないだろう。


いずれにせよはっきり言えるのは、リーマンショック後から続いているファンダメンタルズよりも金融当局の動きが大きな影響を与えるような神経質な相場が当面は続きそうだという事であり、いつになったら金融相場を抜け出して業績相場へと正常化されるのか全く想像がつかない、というようなうんざりする状態が当面は続いていくという事だろう。