シェール革命はどこが革命的で、なぜ巨額の損失をだしてしまうのか?

先日発表された住友商事の米国シェールオイル案件での1700億円もの損失(減損)はマーケットに大きな衝撃をもたらしたが、シェール案件での巨額の損失計上はこれが最初ではないし、おそらく最後でもないだろう。 少し調べればわかるがここ数年だけを見ても他の商社も軒並み大きな損失を計上しているし、大阪ガスも2013年に投資額の9割近い損失(290億円/投資額330億円)を出している。 この傾向は別に日本の会社だけに限ったことではなく、BP,BHP等の名だたる石油会社も大きな損失を計上している。 


資源開発において大きな損失を出してしまうパターンは大きく分けて二つある。 

一つは巨額の設備投資を行なった後に資源量の見積もりが過大であった、或いは資源価格の大幅な下落があった等の理由により採算が取れなくなりその投資が失敗であった事が判明する場合であり、例えば昨年石油資源開発が北海道の勇払油ガス田の開発に関連して計上した約370億円の特別損失はこの例にあたるだろう。 この場合、基本的には先行投資した設備投資費用が損失の最大値の目安となる。

石油資源開発、ガス田減損で最終赤字116億円 13年3月期
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGD26052_W2A021C1DT1000/

そしてもう一つが資源開発の権益を巨額で取得した後にその評価額が過大と判明した場合であり、シェール関連の巨額損失の多くはこちらである。この場合、巨額の権益取得費が損失の最大値の目安となる。 

住友商事、「資源」で高値づかみの大失敗
http://toyokeizai.net/articles/-/49340


で、ここからが本題となるが、シェールガス・オイルにおいてはこの後者に関わる特別損失が非常に大きくなりがちな特性が備わっており、それはその開発の特殊性と密接なつながりがある。 以下ではこの辺りを少し噛み砕いて説明してみる。


いわゆるシェール革命は一般には「技術革新によって、従来難しかった頁岩(けつがん=シェール)と呼ばれる硬い岩盤に閉じ込められた天然ガスや石油を取り出せるようになった(*)」という風に理解されている事が多いようだ。 この理解が間違っているわけではないが、その真に「革命」的な部分を理解するには、この頁岩(シェール)の石油・ガス開発における意味合いを理解する必要がある。

石油やガスは太古のプランクトンや植物などを由来とした有機物が、地下深くで化学変化してできたものと考えられていることはよく知られているが、簡単に言えばこの化学変化が起きる場所がシェールである。 もちろんシェールの全てで化学変化が起きているわけではなく、条件を満たした一部ということになるが、そういう条件を満たしたものは根源岩と呼ばれ、少なくとも油ガス田が存在する場所には必ず存在する。 

根源岩で生成された油ガスは、特定の条件下で移動し、移動先にたまたま溜まりやすい場所があった場合にそこに油ガス田を形成する。 下図はwikipediaから借りてきた図だが、ややミスリーディングなのは油ガス田の割合がかなり大きいことで、実際には油ガス田が成立するのはごくごく限られたケースであり、これを見つける為に「千三つ」ともいわれる探鉱に多くの人々がチャレンジし続けてきたわけである。

一方、図を見ればわかるように根源岩(図中ではGas Rich Shaleにあたる)はかなり広域に分布しており、極論すればその地域内なら掘ればあたる。 そしていわゆるシェール革命はこの広域に分布する根源岩から直接的、効率的に資源を回収することができるようになった点が革命的だったという事になる。  


では、なぜこのシェール革命に乗った会社の多くが巨額の損失を出してしまうかと言えば、その開発手法による。 


シェールガス・オイルは「安い」資源と勘違いされているケースが見かけられるが、これはかならずしも事実ではない。 いくら最新の技術を用いても、対象は非常に硬い岩盤であり、一本の井戸から回収できる資源量は限られている。 つまり資源量あたりの設備投資額はそれほど安いわけではないという事になる。 しかしながらシェール開発の場合、うまくやればこの「薄利」は「多売」と「回転の良さ」によって補うことができる。 

つまり広域に分布しているシェールに対して、高密度で大量の井戸を掘ることにより、一本一本から得られる利益は少なくとも、全体ではすさまじい利益を得ることが期待でき、かつ消費地へのパイプライン等が整備されており一本一本で見れば投資から回収までのスパンが短く回転がよい、というのがシェール開発における成功モデルという事になる。 


例えば井戸一本掘るのにかかる費用が10億円で、そこからあがる売り上げが20億円、利回り20%みたいな「(石油開発としては)薄利」の井戸であっても、その井戸が3000本掘れるとすれば、権益購入に1000億円かかったとしてもそのプロジェクトから得られるはずの期待収益は膨大なものになる。 ところが実際に掘ってみると、一本あたりの売り上げが15億円しか得られなかったとなると何が起こるだろうか? 単純計算だと収益が半分になるわけだが、現実には価値が限りなくゼロに近づく。 なぜかと言えば、10億円の投資で15億円しか売り上げがなく利回りは10%程度になってしまえば、リスクや金利を考えると投資価値がなくなって井戸が掘れないからである。


まあざっくりいってしまえばシェール開発は皮算用が青天井になりがちな特性があり、更にいえばその成功例も多数存在するというあたりが企業の投機を誘って権益価格がバブル化し、結果として巨額の損失を連発している、という感じだろうか。 ただ、上記の例をよく見れば巨額の損失をだした会社にも復活の目がある事もわかる。 15億円の売り上げが20億円の戻るには3,4割程度 油価(ガス価)が上昇すればよいだけだし、逆に井戸の費用が3,4割減っても採算は取れるようになり、一気に莫大な収益を生む卵になることになる(住商は撤退する方向らしいので、もっと大幅に期待を下回っていたのかもしれないが、)。

最後に再びシェール革命の「革命」的な部分に戻ると、今の油価・ガス価でも米国は大資源国として潤っているが仮に油ガス価が更に上昇する事態となれば、既存の油ガス田からの売り上げが上昇するだけでなく、これまで採算がとれなかった地域の開発も加速してよりその恩恵を受ける事ができるようになる。 やや陰りが見え始めていたアメリカの世界経済における一強の座はシェール革命によって補強され、同時に一国内での経済の完結度合いが高まった事により政治が更に内向きになりつつあるように見えるが、この影響が今後の世界情勢に与える影響がどのようなものになるかは予断を許さないところであろう。