財政再建はなぜ必要で、いつすべきなのか?

そもそも財政再建がなぜ必要かといえば、財政が不健全でそのままではいずれ大きな問題を引き起こす可能性が否定できないからであり、多くの場合その主な原因は過去に財政赤字を顧みずに行った財政出動(財政拡張)ということになる。 そしてなぜ過去に財政赤字を顧みずに財政出動をしてしまったのかと言えば、それが少なくとも短期的な景気対策としては非常に有効だから、というのが答になるだろう。

財政出動をケインズ流の総需要管理政策と考えれば財政出動は「有効需要不足によって非自発的失業が発生している状態」の時に行うことで乗数効果等も働いて大きな効果が期待できると考えられており、現代においてはこの政策は広く受け入れられ、多くの国で推進されている。


一方、ケインズ流の財政出動を考えるときに留意が必要であり、かつ往々にして無視されているのはそれが財政の長期にわたる維持可能性を担保するものでは全くないという点にある。 


早い話、不況時に財政赤字を作ってでも財政出動を行って景気を下支えし、好況時には”経済に悪影響を与えない範囲の”財政再建を行うことにより需給ギャップをうまく調整できているような場合でも、その財政が維持可能かどうかはベースとなる財政の水準次第となる。 好況時に基礎的財政収支が対GDP比で+3%、不況時には-3%みたいな感じであれば財政破たんのリスクは低いし、一方で好況時でも-5%、不況時には-11%みたいな感じだとかなり怪しい。

「有効需要不足によって非自発的失業が発生している状態」には一も二もなく財政出動だ! というのは長期的な財政の維持可能性が保たれている範囲内であれば常に正しいのかもしれないが、そうでない場合、下手な財政出動は事態を悪化させる可能性があるということである。


又、「有効需要不足によって非自発的失業が発生している状態」で財政出動が有効とされる理由の一つはこの状態であれば乗数効果等により100の財政出動で100以上の経済成長の底上げ効果が得られるとされている点にあり、逆に完全雇用状態であればクラウディングアウト等の影響によって100の財政出動を行っても100以下の経済成長の底上げ効果しか得られないという事になる。 そして後者はざっくり言えば完全雇用状態であれば100の財政再建(緊縮)を行っても影響は100以下に抑えられるという事でもある。

もちろん100以下に抑えられるといっても財政再建に短期的にマイナスの影響があることは間違いないわけであるが、長期的に考えればここで稼いだ100を次の不況時に財政出動として活用すれば100以上の効果を持たせられるわけであり、長期的に見ればプラスとなるという事になる。


よって財政再建に最適なタイミングというのは財政が長期的に維持可能な水準に留まっている場合は、「完全雇用が達成できており需給ギャップが概ねゼロになっている時」という事になるが、財政が長期的に維持可能な水準に収まっていない場合は話がややこしくなる。 

財政危機が目前に迫り、国債金利に高い財政リスクプレミアムが乗り始めているような状況であれば、財政再建は喫緊の課題となる。 高い財政リスクプレミアムなんてものはその国の経済にとってペナルティのようなもので基本的に百害あって一利なしであり、しかもほっておくと発散していく可能性もあり、殆どの場合、最優先で解消すべきだからである。

財政が長期的に維持可能な水準とは言えないが、危機が目前に迫っているわけではない場合はタイミングについてはややフレキシビリティが高いがいずれにせよそのままでいいわけではない。 従来通りの財政規律が結果としてその財政状況を生み出してしまったことを考えると、従来より一歩も二歩も踏み込んだ財政再建が必要であることは明らかだろう。

結局、総需要管理政策のサイクル内の財政再建と財政を正常化して維持可能な水準へとするための財政再建は並行して考えなくてはいけないという事になる。


最後に日本の現況について考えてみると、日本の財政はこのままでは長期的に維持可能と言えないのは明らかであり、どこかで「財政を正常化して維持可能な水準へとするための財政再建」を行う必要がある。 そして、消費税を8%に増税する前の日本の状況は、「完全雇用が達成できており需給ギャップが概ねゼロになっている」状態であったわけで、財政再建へと舵をきる要件を満たしていたと言える。

但し、問題は日本の場合、、「完全雇用が達成できており需給ギャップが概ねゼロになっている」状態であっても、その潜在成長率の低さから「経済が力強く成長し、増税による悪影響を十分に相殺できる」ような状態にはなかなかならない事である。 潜在成長率が1%に満たないような状況であれば、たとえ相対的に財政再建に適したタイミングであったとしても、財政再建の悪影響が強くでればすぐに不完全雇用にまで経済を落ち込ませてしまう可能性もあるという事になる。

アベノミクス的に言えば、だからこその成長戦略!という事になるのかもしれないが、成長戦略がどのようなものになるにせよ低潜在成長率の主要因の一つが人口動態であり、一人あたりの潜在成長率は他の先進国と比較して大きく劣るわけではないことを考えると潜在成長率の押し上げが一朝一夕になるとはとても思えないし、それが成されるまで財政再建を先送りしつづけられる保証もない。 

幸い足元で財政リスクプレミアムに追い立てられているわけでは無いのだから、もし仮に消費税の増税が許容できないようなレベルにまで不完全雇用を拡大した場合は一時的に財政出動なり金融政策なりで対応することも可能なわけで、ある種の余裕をもって増税に臨めるという風に考えることも可能だろう。

もちろん最初から増税を先送りすることによって結果として更によい状況下で財政再建にのぞめる可能性もないわけではないが、その逆の目が出る可能性もまた十分にあるわけで、財政リスクプレミアムに追い立てられるように財政再建に突入させられるような状況こそが避けるべきだと考えるのであれば、財政再建すべきは今、という事になるわけである。