英国は再び住宅バブルに突入したのか?

弊ブログでは金融緩和のリスクの一つとしてバブルを誘発する危険性について何度か考察したことがあるが、現在のイギリスの状況(特にロンドンを中心とする都市部の状況)はまさにその懸念を裏付けるものとなってしまっているように見える。

筆者が居住するロンドンでは(+少なくとも筆者が借りているようなタイプの賃貸では)家賃の更新は一年ごとに大家と交渉して決まることが多く、その交渉は住宅価格の推移に大きく影響を受けるため、過去数年、更新の度に住宅価格の高騰を実感してきたが、2012年頃からその度合いがますます顕著となってきた。(最新のデータではロンドンの住宅価格は過去1年間で20%(!!!!)近く上昇しているらしいので、次回の家賃更新が今から恐ろしい、、)


それまでも「住宅価格上昇率≒インフレ率>賃金上昇率」であり、賃金の上昇に比べると住宅価格の上昇率は高い傾向にあったが、2012年頃からはそれが「住宅価格上昇率>>インフレ率>賃金上昇率」となった感がある。 実際に住宅価格の水準を表す指標の一つである(平均的な一回目の住宅取得価格/年収)の比も急上昇しており、ロンドンでは既にリーマンショック前のピークを大きく超えてしまっている。

このトレンドが危ういのは金融緩和(量的緩和)が縮小に向かってもお構いなしに加速してきたことであり、既にバブル的な価格高騰サイクルがまわり始めている気配が感じられることである。


そして更に悪いことに、この状況に対する英中銀の姿勢が不安を更に掻き立てるものとなっている。


例えば、今年の一月の段階では英中銀総裁のカーニー氏はこの住宅価格の上昇についてと述べ、現状レベルの住宅価格の上昇はFinancial Stabilityへの脅威とはならないと述べ、更に2014年もこのペースが続くだろうと呑気なことを言っていた。

"Bank of England governor plays down UK housing bubble threat" Guardian 2014/01/15

Carney told MPs on the Treasury committee that at current levels rises in house prices and mortgage approvals were not a threat to financial stability.

"We've had an acceleration from quite a low level. Any time we see a sharp increase in credit growth we take an interest. We do have to put in some context though that it is still running below historic averages."
Carney said approvals and transactions were running at around three quarters of pre-crisis levels, and the Bank expected "a continuation of current momentum" in the market in 2014

しかし、そのわずか半年後の7月には

"Bank of England governor warns of a bubble as UK house prices rise 10.5%" Guardian 2014/07/15

Mark Carney told MPs on the Treasury select committee that the threat of a property bubble was the "biggest risk" to economic recovery over the medium term, as official figures showed house prices rose by 10.5% in the year to May – and more than 20% in London


と、バブル懸念が経済回復への最大のリスクだと警戒をあらわにし、住宅ローン規制の強化まで打ち出した(参照:「 http://nna.jp/free_eu/news/20140627gbp001A.html英中銀、住宅ローン規制を強化=融資額に上限]」)


もちろん、依然として現状がバブルであるとは言っておらず、あくまでバブル"懸念"が最大のリスクだと言うにとどまっているわけであるが、バブルの崩壊がだれの目にも明らかになるぎりぎりまで中銀がこういった言い回しをすることは過去何度も繰り返されてきたお馴染みのパターンでもある。(ちなみに新聞等の論調では、「ロンドンは既にバブルである」というものが多く、中には「それがはじけるのも時間の問題だ」というものもかなりある。) 


今後、住宅ローンの規制の強化が有効に働いて本当にバブルの"懸念"で終わるのか、それを無視して本格的なバブルへと向かうのか、或いは規制強化が引き金となってバブル崩壊に向かうのかは現時点では判断が難しい。 前のエントリーでも触れたように日本とは異なりイギリスは当面人口が大きく増え続けることが予測されており、中長期的に見れば住宅需要は伸び続けると考えられる。よって現在の価格がたとえバブル的な水準であったとしても軟着陸できる余地はあるはずである。


イギリスの住人としてはバブル崩壊⇒金融危機⇒金融緩和⇒バブル⇒バブル崩壊⇒金融危機⇒金融緩和・・・・というコンボを食らい続ければ実質可処分所得が減る一方になってしまうわけで、できればバブルには軟着陸してもらって、実質可処分所得の上昇(賃金上昇率>インフレ率・賃貸料上昇率)フェーズがそろそろ到来してほしいところであるが、なかなか先行きは厳しそうである。