人口動態と日本の失業率の推移について

前回のエントリーの中で日本の雇用が異次元緩和を行なう前から回復トレンドに乗っていたと書いたところ、以下のような指摘を頂いたので、すこし考察してみる。

アベノミクス前から景気回復が起きていたというのが事実誤認。


過去5年の年末時点と今年に入ってからの就業者、完全失業者、失業率


年・月   就業者 完全失業者 失業率
2009年12月 6290万人  341万人 5.2%
2010年12月 6307万人  321万人 4.9%
2011年12月 6297万人  297万人 4.5%
2012年12月 6257万人  280万人 4.3%
2013年12月 6349万人  244万人 3.7%

2014年1月 6319万人  242万人 3.7%
2014年2月 6332万人  233万人 3.6%
2014年3月 6346万人  236万人 3.6%


2012年末までは失業者が減ったといっても、仕事が見つかったのではなく探すのを諦めて労働力人口にさえカウントされなくなったことによる。景気悪化が長引いたことを意味するだけでこれを景気回復とは言わない。2012年末になって急激に景況感が改善し、失業者が職を見つけて就業者が増える中で失業率は低下を続けた。

『雇用人口比率が殆ど改善していない一方で、少しずつであっても失業率が改善しているのは就職をあきらめた人が分母から抜けていっているというのが背景にあるのではないかと推測される。』と言っていたのに。

日本のことになると『日本の場合、世界金融危機の余波を受けて失業率は2009年7月には5.5%まで上昇したが、第二次安倍内閣誕生時には既に4.3%程度にまで回復しており、その後にアベノミクスによって失業率の更なる回復が達成されたのだとしてもそれは0.7%(4.3%-3.6%)の範囲内の話になる。 しかも失業率の回復トレンドは異次元緩和前と後で顕著な差は見られない』となるわけか。

後者については以前のエントリー(「「所得上昇なき景気回復」、「雇用なき景気回復」を経て「雇用なき株価回復」へ?」)で、米国の失業率について筆者が考察した時に書いたものを引用して、筆者の考察がダブルスタンダードになっていると批判しているのであろうと思われるが、結論はともかくロジック的な意味では先のエントリーのポイントが理解できていない。


先のエントリーで引用させてもらった米国の”真の失業率"は、米国の労働人口の自然増("Organic Growth of Labor Force")を織り込んだもので、統計上の失業率が改善しているのに真の失業率が改善していないというのは、平たく言えばリーマンショック後に急落した雇用率("Employment Rate")が急落した水準のまま改善していないという事であり、よって「就職をあきらめた人が分母から抜けていっているというのが背景にあるのではないかと推測される。」という事になる。

しかしながら日本において状況が決定的に違うのが日本の場合は労働人口が自然”減”している点である。 実際に2012年末までの雇用率を見てみると米国がリーマンショック後に大きく落とした雇用率を殆ど取り戻せていなかったのに対し、日本はその減少幅も小さかった上に2012年末頃には概ね危機前の水準まで戻っている事がわかる。

よってこの図を見る限り、「2012年末までは失業者が減ったといっても、仕事が見つかったのではなく探すのを諦めて労働力人口にさえカウントされなくなったことによる。」ということが明らかだとは思えない。 少なくとも生産年齢人口に対する雇用率は回復していたわけであり、失業者が減った事が一部の人々が「労働力にカウントされなくなった」ことによるとするならそういった人の多くは65歳以上の人々ということになる。 

もちろん65歳以上の人々が「仕事が見つかったのではなく探すのを諦めて」分母から外れていった可能性を否定するものではないが、普通に考えれば定年によって労働力人口から抜けていった人々も沢山いたはずだろう。 


で、以上がコメントに対するざっくりした回答となるが、それよりもおどろいたのは久々に見た日本の雇用率が72%を突破し、更にすごい勢いで最高記録を更新し続けていることだ(下図参照)。 女性の社会進出によって日本の雇用率は趨勢的に上昇し続けてきたし、欧州ではもっと高い国も珍しいわけではないが、それでも過去に例を見ない水準である事は間違いない。しかも、これだけの雇用率でも就業者数で見ればリーマンショック前の2007年末の就業者数(6450万人)を100万人以上下回っているわけで、足元で人手不足感が高まっているのはある意味当然とも言えそうである。 

ちなみにこの過去最高の雇用率をリフレのおかげだという人も出てきそうだが、もちろん可能性はあるものの、これもそう簡単な話ではない。 先に述べたとおりリーマンショック以降の雇用率の改善が生産年齢人口の減少によって後押しされたものであるなら、足元の人手不足も又、生産年齢人口の減少によって影響を受けているはずであり、その切り分けが必要となるだろう。 

* ちなみに指摘されてもう一度日本のおける雇用の回復トレンドを見直してみたが、確かに2012年末までと比較して2013年に入って回復トレンドが加速しているようにみえるデータもかなりあった。 ただ、その場合でも2012年後半から「異次元緩和→為替安・インフレ率上昇」という推移を経た日本と「量的緩和の打ち止め→為替高・インフレ率下落」という推移を経た英国とが同時期に雇用環境の改善をみたというのであれば、やはり両者に金融政策や為替・インフレ以外の共通の要因が働いたのではないか?という前回エントリーの基本部分についてはあまり影響はないはずである。 


* コメント欄で面白いレポートを紹介いただいたのでリンクを貼っておく。 (ご紹介ありがとうございました。)

「アベノミクス本来の貢献度」を
http://www.apir.or.jp/ja/research/files/2014/04/APIR_Commentary_No32.pdf
で検証してますね。
ドイツ、オランダ、ノルウェー、イギリス、南アフリカの5カ国で計算すると、日本のGDPをかなり近似で出せるのですが、アベノミクスの時も計算値とピッタリ重なり、日本独自の政策で上振れした様子は無かった模様。
世界の景気に連動説を裏付け。

まあここまでピッタリ重なるほどの連動性があるかどうかはともかく、例えばEconomistが集計しているWorld GDPを見ても2013年の頭に景気の変動が全体として底打ち・反転しているわけで、日本や英国の景気回復もこれらと無縁というわけではないだろう、

World GDP
http://www.economist.com/news/economic-and-financial-indicators/21599367-world-gdp


(赤字部分は追記)