財政再建の正当性について

なにやら財政再建があたかも悪い事であるかのように主張するのが一部で流行っているようであるが、財政再建の正当性について一度書いておきたい。


既に原則を説いても仕方がないくらいの所まで来てしまっているが、財政について法律(財政法)では「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。」と規定しており、これが守らてきたのならそもそも財政再建の必要など生じえない。ただし、財政法第4条において「公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」と規定されており、建設国債(四条国債)の発行は法律でも一定の範囲内で認められている。 その理由は国家が借金を一時的に負ったとしても、建設された社会資本は将来の国民の資産として残るからである。


更に言えば、不況期には建設国債を活用した適正な財政政策には二つの効果を期待することができる。それは弱った総需要を底上げすることと、将来における供給を改善することである。 例えばこちらの記事(参照)では

ハーバード大学のカーメン・ラインハート教授とケネス・ロゴフ教授は、その道筋を示している。「需要の弱さと金利の低さを考えると、政府が高リターンのインフラプロジェクトを特定できるところでは、借り入れの増加が正当化される。生産的なインフラを賄うための借り入れは、長期的な潜在成長率を高め、最終的に債務比率を低下させる」

と著名な両教授の主張を引いて英国の緊縮財政を批判している。


筆者も両教授が指摘するような公共事業であれば「借り入れの増加が正当化される」事に全く異論はない。 長期的な潜在成長率を高める投資を行う事は国民全体の効用を高める効果が期待できるわけであり、更に結果として債務比率を低下させるのであれば文句のつけようがない。ただ、公共事業における問題の一つが「政府が高リターンのインフラプロジェクトを特定できる」かどうかという点にあり、明らかにそうとは思えない事例が多く存在することは周知の事実と言って良いだろう。 


しかしながら財政再建しないといけない状態になった最大の理由は建設国債による公共事業が「長期的な潜在成長率を高め、最終的に債務比率を低下させる」ことができなかったからではなく、むしろバブル崩壊以降の「特例公債(赤字国債)」の野放図な膨張によるところが大きいだろう。


建設国債と異なり、特例公債(赤字国債)は本来財政法では発行を認められていない。 しかし、1965年度の補正予算で赤字国債の発行を認める1年限りの特例公債法が制定され、赤字国債が戦後初めて発行された。その後は10年間は赤字国債の発行はなかったが、1975年度に再び発行されて以降は1989年度まで特例法の制定を続け赤字国債が発行された。 1990年度にはその年の臨時特別公債を除く赤字国債の発行額がゼロになり、1993年度まで発行額ゼロが続くものの、1994年度から再び発行され現在に至っている(参照)。そのうち、1994年以降の赤字国債の増え方は半端ではなく、24年度には国債発行額の9割が赤字国債であり、累計でも3分の2近くが赤字国債によるものになっている。


つまり、国が背負っている借金の内480兆円についてはそもそも高リターンかどうか以前の問題として目に見える形で国民の資産として残っている訳ですらないという事である。 

念のために書いておけば、これは国が借金を完済しないといけないかどうかということとは関係が無い。 国は特定の期限内に借金を完済する必要が無いとしても完済するまで利子を支払い続ける必要があり、1000兆円の債務残高を積み上げてしまったときにそれに掛かる金利が3%になれば、全く元本を返済しなくても毎年の税収の中から約30兆円を利払いの為だけに費やさなければならない事になる。 これは消費税による税収の実に3倍相当の規模である。 

この利払い費は、その債務残高が建設国債によるもので道路等の資産が残っていればその使用料だと考えることもできるが、赤字国債の場合はそれすら残っていないわけである。


反対派は財政再建派を(国が気にする必要が無い)倹約という生活上の倫理にとらわれていると批判するが、そこに倫理感があるとすればそれは「将来の世代に資産を残すわけでもないのに借金だけ残すような事を是としない」という点に置いてであり、これは財政法においてもともと建設国債が一定の範囲内で認められている一方で赤字国債が認められていない理由でもある。 よって少なくとも赤字国債の発行が不要になる水準までの財政再建については当然目指すべきであるし、正当性があると筆者は考えている。 


但しアルコール依存症の人間にとって急激な断酒が命取りになりかねないように日本がいきなり財政均衡を数年で達成する事は方向性は正しくとも弊害も非常に大きいし、財政再建を是とする筆者としてもそのような急激な財政再建を支持している訳ではない。 本来であれば超低金利を少しでも長期に維持し、その間に財政均衡を目指すべきであったと筆者は考えているが、その超低金利がいつまで続くかも分からない状況になってきた。

何度も書いているが筆者の考える好ましくないシナリオの一つは景気が回復しないまま長期金利が上昇していき、否応なく急激な財政再建、つまり増税と社会福祉の削減、を強いられる事であるが、最近徐々に雲行きが怪しくなってきた感じがするのが気のせいだと良いのだが、、