少子化の加速を少しでも食い止めるにはどうすればよいか?をもう少し考える

前回のエントリー(「少子化の加速を少しでも食い止めるにはどうすればよいか?」)が意外に反響があったのでコメントに返答する形で、前回書き足りなかった点を付け足したい。 (コメントいただいた方の名前は入れたほうがいいのか悩んだが、複数のコメントをまとめてしまったものもあるので、とりあえずは名前なしでコメントのみ参照させていただく形にした。)


まず、

  • 「少子化と女性の社会進出と関係がある」
  • 「少子化は先進国全体のトレンドだ」
  • 「お金があっても子供がいらない人が増えている」 

あたりは前回のエントリーでも示唆した「金で解決できない問題」があるということだろう。

例えば先進国と人口増加率の高い発展途上国を比較するともっとも違うのが世帯当たりの子供の数であり、日本では既に非常に珍しくなってしまった4人以上の子持ち家庭だって珍しくない。 これを日本で再現するような事は難しいが、前回のエントリーで示したのは日本でも若い頃からそこそこ収入がある人間は早めに結婚しそれなりの人数の子供を持っているのだから、再分配で出生率を2や3にするのは無理でも今より底上げするのは可能ではないかという話。 そういう意味を込めてタイトルを「少子化の加速を少しでも食い止めるにはどうすればよいか?」としたわけである。

  • 「う〜ん、シャイというか晩生な男性が増えてきた、国や自治体主導でどんどんお見合いや婚活イベント等を主催するべきだと思う。結婚する数増えれば少しは少子化に歯止めができると思う。」
  • 「これが結論ですんだのは多分10年から20年前の話。もう今は金が多少ある人でもしないよ。多少あるくらいじゃぜんぜん足りないのも事実だが、それ以前に人生の選択肢からそもそもはずれつつある。」

前回のエントリーで書ききれなかったのが、「所得と既婚率、子供の数は因果関係なのか相関関係なのか」という問題と「20代の低い既婚率は単に所得が低いからなのか、趨勢的な変化なのか?」という問題である。 この二つの問題は前回のエントリーの根幹にかかわることだが、なかなか解釈が難しい。

一つ目の問題について言えば、前回示したグラフが例えば「コミュ力がある人間は若いころから高所得でかつ婚期も早い」ということが示されているだけなら、「コミュ力」のない人間に所得だけ再分配しても駄目じゃないか?という懸念は確かに残る。 

二つ目の問題はより深刻で、既に20代の若者は上の世代よりも更に結婚、子育てに後ろ向きになっていて、かれらが30代になり今の30代と同じくらいの所得がもらえるようになったとしてもその既婚率は大きく下回ることになるのではないか、という話であり、「少子化のスパイラル化」が進んでいるのではないかという話にも関連する。

例えば「晩成な男性」という点について言えば、一つは大卒が一般的になり社会に出る年齢が高まった事、もう一つはこちらのエントリーでも書いたように、彼らは社会に出た後も人口ピラミッドが歪んでいる影響でなかなか下っ端から抜け出せず、ずーーーっと社内の「若い人」的ポジションに居るというのも原因の一つではないかと思う。 これは短期的には解決が難しい話だろうが、だからと言って放置していては少子化のスパイラル化は進むだけなので、問題は問題としてやはり「少子化の加速を食い止める」事が重要であることには変わりないだろう。

  • 「結婚して子供を作らない夫婦やずっと独り身の人にか「頑張って子供を」とか言ってもハードルが高いと思うがね。 そんなことよりもすでに子供のいる夫婦に2人もしくは3人目以上の子供に対する公的助成を継続性担保のある制度にすべきと思うが。」

前半についてはやはり「お金で解決できない事」。そもそも好きこのんで「ずっと独り身の人」に結婚させようという話ではなく、所得さえ上がれば結婚してもいいと思っている人や、実際に中年になって所得が上がってからやっと結婚している人に早めに結婚できる環境を作ろうという話。

後半については基本同意だが、前回の図が示す通り、700万円以上の所得がある層は所得と子供の数に強い相関がみられない一方で、低所得者層は相関が強い(低所得であるほど一人っ子が多い)わけで、結局これも広い意味では低所得者層への再分配になるんじゃないかな? 

尚、「子ども手当」についても所得制限しなかったことを問題視する指摘も頂いたが、これは単に手法上の問題というのが筆者の理解。 高所得者で子沢山の人が沢山もらえたとしても、その財源を累進性の高い税を増税することで賄うなら、トータルで見れば高所得層から低所得・子持ち層への再分配として十分に機能するはずである。 (尚、余談だがこれは逆も言えるわけで、累進性の低い税を増税しても、その使い道が低所得者層に厚くなるならそれも再分配として機能することになる。)

ただ、前回のエントリーは子供を持つ前の段階で、早めの結婚を促すために若年・低所得者層への再分配が有効でないかという話だったので、最後にいきなり「子ども手当」の話を出したのはつながりが悪かったかもしれない。

  • 「子供を持たない連中が将来を気にする必要がないのが問題」
  • 「子ども手当ては政治的理由で頓挫したとあるのに、なぜ金の問題なら簡単に解決できるというスタンスなのか良く分からん…。金で解決出来ない事も「金で解決できる事も」対策は至難、というのが真実じゃないかな。」

という指摘はまさにその通りで、少子化対策が喫緊の課題であるのになかなか対策が打てないという現実はそう理解せざる得ない。 
ただ、政治家がいくら大局観を持っていても「金で解決できない事」を個々人の価値観に手を突っ込んで解決することは無理なので、やはりやるなら「金で解決できる事」からという話にならざる得ない。

  • 「いっそのこと国が借金しまくって子育て世帯にバラまいたらどうかね?老人にバラまくよりはいいことあると思うが。」

というのも一理あるが、他でも指摘があったように財源の持続性が疑われるような状態だと誰も安心して子育てできないわけで、やはり一義的には現在生きている人からの再分配で対応すべきというのが筆者の考え。

  • 「移民を増やせばよい」

という意見は人口問題の解決になっても今の日本国民の少子化問題の解決にはならないのでは? もちろん「移民」も帰化すれば日本人になり、何世代か経てば日本人と変わらなくなり、日本経済圏、日本語文化圏の担い手になるかもしれないが、移民がどんどん増えていけばそれはそれで摩擦も生じるだろう。

  • 「リフレで失業率を減らすのが一番」

もちろん失業率が減ることはプラスの効果があるだろうが、5%が4%になってどれほどの効果があるかといえば疑問。 以前にも触れたが浜田参与曰くインフレ政策の目的の一つは実質賃金を下げて企業の収益率を高めること(それによって失業率が減る)らしいから、むしろ多くの人間にとっては実質賃金が下がり、より少子化が進む可能性すらある。

又、これも何度も取り上げた話だがITバブル後にグリーンスパンの金融緩和が演出したアメリカの好況時の所得層別実質賃金の推移をみても、結局所得がどんどん増えているのは上位数%に過ぎない。 同じことが日本で起こっても既婚率、子供の数共に所得への反応が鈍くなっている高所得者層が更に高所得になるだけで少子化トレンドへの影響は限定的となる恐れが強いのではないか?

  • 「働いたら負けの共産主義国家になるな。 頑張っても頑張らなくても同じ。中卒でプーやってデキ婚が得w ナマポ河本歓喜wwwwwww」

「自由の戦士」と名乗っている割には書いてることがいかがなものかという気もするが、まあこういった意見があるだろうことは予想通り。結局の所「再分配」自体が気に入らないという人が居るのは避けられないだろう。 


最後に少し違う視点からの非常に興味深い指摘があったので紹介。

  • 「東京は戦場なんだから闘いながら子育てするのは無理。東京とは何かを国民が正しく認識しないと。打って出ることを否定はしないが、人生賭ける覚悟くらいは必要かもね。中間層がもっと地方に行けば多少はマシになると」

確かに都市と地方の関係は少子化問題でもやはり大きな意味を持ちそうである(もしかすれば前回考察したデータを都市・地方で細分化していけば全く違った結論になる可能性もありそう)。 正面からの再分配よりもこちらからの方面のアプローチの方が或いは近道かもしれない。 



[追記]
最後に蛇足だが、どうしてもレスしたいコメントを紹介

  • 優秀なイケメンをクローン技術で大量生産しよう(提案

いや、クローン技術で大量生産できるなら、そもそも少子化問題解決してるしw