アベノミクスによる資産バブルは既に加熱しているのか?

いわゆる「反アベノミクス」、「反リフレ」陣営からは早くもバブルが過熱しているとの声が聞かれるが、これはさすがにいささか気が早いのではないだろうか? 筆者もアベノミクスによる資産バブルを懸念しているが、現状の水準が直ちにバブル的水準かといえば、少なくとも株価についてはおそらくまだそこまではいっていないのではないかと考えている。 


もちろん短期的な株価の高騰は収益性の改善だけでは説明がつかないレベルではあるかもしれないが、株価はその会社の収益性だけでなく株価自体の推移の見込みによっても変動する。 つまり会社の収益性が全く同じでも株価が年率3%ずつ下落していくと見込まれている場合と株価が3%ずつ上昇していくと見込まれている場合では適正と考えられる株価は大きく異なるということであり、株式市場のトレンドの反転時には一気に株価が上がっても不思議ではないということになる。

また、今回の株価の高騰は政権交代+アベノミクスによる株式市場のマインドの反転と共に、通貨価値が毀損していくのではないかとの懸念からくる実物資産買いニーズが重なったこともその上げ幅拡大の後押しとなったと思われる。 円安による労働コストの圧縮で企業価値が上昇したことに加え、その企業価値を計る通貨価値が下落した、或いは下落するのではないかという懸念が高じた、という両面からの株価上昇圧力があったということである。

この後半部分を少し違う観点から考えると、会社の収益性が同じで株価が高騰すれば投資効率は下がることになるが、現預金がインフレ税にさらされていることから株式投資についても相対的に低い投資効率が許容されるようになったと考えることも可能かもしれない。


又、自民党政権が復活すると原発再稼動の実現性が高まるはずだ、という期待感も無視できない株高要因のはずである。 
以下のグラフは、ドル建てでの日経平均とNYダウ平均の推移をリーマンショック後の最安値を1として比較したもの(ただし使いまわしの為、株価が急騰し始める前の12年9月頃までしかないが)だが、大震災前まではドル建てでの日経平均はほぼNYダウ平均と連動していた。 しかしながら大震災の被害に加え、原発停止による長期的な電力供給への不安に更に中国問題も重なった事からその後の推移はダウ平均に大きく水をあけられることとなった。
一方、安倍首相が明言したわけでは無いものの。「自民党政権なら、停止している原子力発電所の再稼働が進み、「2030年代に原発ゼロ」の方針も見直される」と期待されていることは事実であり、結果としてみれば昨年の年末以降、電力会社株は軒並み大幅上昇している(もちろんいまだ震災前の水準には程遠いが)し、電力不足、エネルギーコスト高騰という潜在的な懸念が相対的に弱まったことが全般的な株価の底上げにも貢献していると考えるのはそれほど無理がある話とは言えないだろう。


但し、現状の水準自体がバブルと言えないとしても、バブルの芽は既にあちらこちらにばら撒かれている。 過去の実例から考えても、バブルは今回のような不況からの市場の反転時に加熱しやすいし、長期にわたり低金利がコミットされるような状況では高リスクの投機が誘発されやすい。更に日銀がETFの購入推進をコミットしたことにより、ファンダメンタルとは別の株価上昇要因も加わり、バブルが生成される素地は出来上がっている。 又、個別の銘柄を見ても既に加熱が疑われるものも散見されるように見える。

これまでの日銀は一部の人々に批判されながらも地道にバブルの兆候についての知見を蓄えてきたはずであり、その上で更に白川前総裁は安全運転してきたわけなのだろうが、黒川新総裁はいきなり全速力でかっ飛ばすのが流儀らしい。 かくなるうえはナビゲータはこれまで蓄えた知見を総動員し少しでも早く危険を察知し運転手に伝えてほしいものである。 例え危険を察知できたとしても上手くよけていくにはモナコサーキットを300 km/hで駆け抜けるほどのテクニックが必要とされるかもしれないが、いきなりぶつかるよりはマシだろう。いずれにしろ無事クラッシュせずにゴールまでたどり着けるかどうかは黒田総裁の腕にかかっていることになる。


尚、ついでに書いておくと、金融政策の弊害としてバブルのことを書くと決まって出てくるタイプの批判がいくつかある。 例えば以下のようなものがその代表である。

a. 金融緩和を行っても常にバブルが起こるわけではない
b. 金融緩和を行っていないときもバブルが起こったことがある
c. バブルは崩壊するまでバブルとはわからない
d. 金融政策は資産価格を考慮すべきではない


a. b. については、事実としては正しいが、それ以上のものでもない。赤信号を渡っても常に事故にあうわけではないだろうし、青信号を渡っても事故にあうこともあるだろうが、どちらも赤信号を渡ることが安全だということを証明している訳ではない。

そもそも金融緩和を行って常にバブルが起こるのであれば、さすがにだれも金融緩和で景気回復だ!みたいな事は言い出さないだろう(いや、そうでもないか?)。 この手のリスクは起こるかどうかわからないからこそ、うかつに手を出して大失敗する人間が出てくるわけである。 


c. については最近では産経ニュースの田村氏が「「反アベノミクス」を斬る」と題して「バブル判断基準なし」、「「株価などの値上がりの局面で『バブル』と判定できる基準はない」と、FRB幹部から聞いた。」と主張しているが、「バブル判断基準なし」がどうしてリフレ政策推進の補強材料になるのかさっぱりわからない。 この場合は逆に「バブルを事前に判断できる基準があるから、そこまではアクセルを踏んでも大丈夫だ、安心しろ。」と言ってもらわないと駄目だと思うんだが、どうだろうか?


まあd.も含めて、こういう主張をする人達は「反アベノミクス」、「反リフレ」はもちろん自らが批判の対象としている白川前総裁や日銀の執行部が何を主張しているか(いたか)についてはあまり興味はないのだろうが、不思議なのはリフレ派の教祖的存在になりつつあるバーナンキ議長が何を言っているかくらいは目を通さないんだろうか?ということである。

以下は一か月ほど前の記事になるが、バーナンキ議長は資産市場の過熱について、「FRBは過熱の兆候がないかさまざまな資産市場を積極的に監視している」、「仮にFRBの認識が間違いで実際にバブルが生じているとすれば、バブルが崩壊した場合にどのような影響が広がるのか、FRB関係者らは自問している」とし、「将来的に資産市場の過熱によって金融安定性への懸念が高まれば、FRBは対応措置として金利政策を調整することも辞さない構えだ」と述べている。 田村氏が話を聞いたFRB幹部とは誰だったんだろうか?? 

株式バブルの兆候はない=バーナンキFRB議長


米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は26日、株式市場が過熱している兆候はあまり見られないとの認識を示した。

 米上院銀行委員会での証言に臨んだ議長は質問に対し、企業の業績は極めて好調であり、株式リスクプレミアムから判断すると株式保有者のリスク回避志向は依然として強いと指摘し、自らの見解を説明した。同プレミアムは足元で平均以上の水準にあるという。

 FRBは過熱の兆候がないかさまざまな資産市場を積極的に監視しているとし、証言原稿の内容をあらためて繰り返した。また、仮にFRBの認識が間違いで実際にバブルが生じているとすれば、バブルが崩壊した場合にどのような影響が広がるのか、FRB関係者らは自問しているという。

 将来的に資産市場の過熱によって金融安定性への懸念が高まれば、FRBは対応措置として金利政策を調整することも辞さない構えだと、議長は述べた。「これらの問題が十分大きな懸念事項になれば、金融政策を策定する上で考慮に入れることもあり得る」と語った。

http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324838304578328893876627524.html