黒田日銀の異次元緩和による予想外の波及効果について

先日のエントリー(参照)では、アベノミクスによる円安、株高は想定の範囲内だと書いたが、一方でより広い目で見ればやや予想外の、それもプラス方向に予想外の、波及効果と思われるものもあった。 (まあ、予想外と言っても筆者にとって予想外だっただけで、その筋の人は予想していたのだろうが、)

で、結論から言ってしまえばそれは欧州各国の国債金利の低下である。


参照: Japan’s yield hunters seek European debt
http://www.ft.com/cms/s/0/b5a2046e-a042-11e2-a6e1-00144feabdc0.html#axzz2PxOnvxNI


筆者は以前より、どうせ日銀が金融緩和するなら国債不安に揺れている欧州諸国の外債でも買えばいいのではないかと考えていた。 そのこころを以前のエントリーから引用すると

その他の手段としては日銀による外債の購入があげられるかもしれない。 これを金融政策と呼んでいいのかどうかは微妙な所であるが、やるとすればこれがもっとも効果があるのではないかと筆者は考えている。 以前にも書いたが、現在欧州で進行中の国債危機はもし日中辺りが手を組んで外部からドカンと資金を突っ込めばかなり改善される可能性がある(逆に内部からの事態の抜本的な対策は非常に難しい)。

日銀がそういったリスクをとってよいものかという問題はあるが、これら国の国債の金利は日本国債とは比べ物にならないほど高いし、リスク回避で円高になっていることも考えると、日本の外債購入により事態が改善されれば金利と為替の両面でメリットが得られる可能性も高い。 又、世界経済が上向けば当然日本経済の後押しにもなる。 為替介入の一種と見られる可能性もあるが、円安誘導の為の為替介入と異なり、そのメリットは自国の輸出産業だけに留まらない訳であり理解も得られやすいだろう。
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20120904/1346760607

ということであるが、黒田日銀の異次元緩和は今のところ同様の効果をもたらしているように見える。(懐疑的に見れば単に投機筋に材料視されているだけの可能性もあるが、それでもこういった記事が出ること自体が効果をもたらしているとも言えるだろう。)


これがある意味予想外であったのは、更なる金融緩和が他国への資金流出を促すとして、その主戦場はBRICS等の新興国であって国債不安を抱えている欧州諸国ではないだろうと考えていたからである。 今回ももちろん新興国への資金流出は存在するだろうが、異次元の金融緩和はその恩恵?を目に見えるレベルで欧州諸国にまでもたらしているようである。


うがった見方をすれば、市場にうずたかく詰まれた余剰資金がPIGS国債のようなハイリスク資産へも向かいはじめた、或いは向かいはじめると見込まれている、という事であり、リスクを伴うことではあるし、国債バブルの海外輸出とも言えるかもしれない。 しかしながら自己成就的な財政危機に見舞われていた各国にとっては明らかにプラスの効果が期待できるだろうし、これらの国が安定すれば世界経済にもプラスの効果が期待でき、当然日本経済にもその恩恵が及ぶことになる。 

もちろんこの流れは一方では円安、ユーロ高圧力となって不況下の欧州経済の足かせにもなり、最悪の場合、通貨切り下げ競争に発展する恐れもある。 しかしながらユーロ高による不況圧力と国債不安による不況圧力、欧州全体としてみれば後者の方が強いとすればこの波及効果が世界経済にプラスの効果をもたらす可能性は十分にある。 そしてこの波及効果はかなり大きく効いてくるかも知れない。 そうなればアベノミクスが成功する可能性も大きく底上げされるだろう。 

正直、このトレンドが継続するのかどうか、或いは別の爆弾が次から次へと出てくる状態が続くのかどうか、全く予断を許さない状況ではあるが、欧州諸国には是非この機を活かして一気に不安定な状態から抜け出して欲しいものである。