アベノミクスの行く末を予想する

いよいよアベノミクス(リフレ政策)が本格的に始動しはじめた訳であるが、今回はあらためてその行く末を予想してみたい。  


といっても筆者の予想は、2011年1月に書いたエントリー(「リフレ政策で日本は破綻するのか?」)から殆ど変わっておらず、要は以下の5つのシナリオのどれかになる(或いはその複合になる)というものである。

よってリフレ政策によって日本が破綻しないとして、その時に起こりうる可能性については少なくとも以下の5つが想定される。


0. インフレ率の上昇、国債金利の上昇、円ドル相場の軟化、資産価格の上昇 

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1. インフレ率がターゲットを早々に上回り、景気が本回復する前に引き締めざる得なくなる

2. 国債金利が高騰し、財政再建へと向かわざる得なくなる

3. 資産価格が高騰し、バブル抑制の為に引き締めざる得なくなる

4. インフレ率の上昇過程で景気が自律回復し、好況・財政再建に向かう

5. (番外) 対応がぐだぐだになって破綻へまっしぐら、、
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110113/1294942665

円安になったことや資産価格が上昇した事をもってリフレ政策が成功した、とか反リフレ派は間違っていた、みたいな短絡的な言説もみられるが、初期段階での円安や資産価格の上昇は概ね予想通りであり、おそらくはインフレ率が上昇し、それにつれて国債金利も上昇するところまでは、"コストを度外視して"金融緩和を拡大しつづければたどり着けるはずである。 そういう意味で、上記の予想ではその状況を「 0.」 、つまり出発点、或いは途中経過としていた。 

尚、念の為に繰り返すが、上記は2年以上前に書いたエントリーからの引用であり、現況を見て辻褄を合わせたわけでは無い。又、これをもって筆者の予想が当たった・外れたという程の話でもなく、金融緩和でコストを度外視して国債・ETF・REIT等を買い進めるなら当然予想される範囲内の話でしかない。 (白川日銀も「市場の期待に応えて」金融緩和を盛大に奢れば、円安になり、かつ資産価格が上昇するケースは当然予想しており、その上でそういったことは「長期的な経済の安定」に寄与しない可能性が高い(「市場が望むことと、長い目で経済安定に望ましいことは必ずしも一致しない」)と説明してきたわけだが、そういった説明は少なくとも一部の人々には全く理解されていなかったようだ。)


リフレ政策が本当の成功を収めるかどうかは、この後1から4のどのコースに乗るかにかかっており、もちろん目指すのは4ということになる。 そしてその場合は、

もちろんリフレ政策が申し分なくうまく行く可能性もある。財政政策や金融緩和が短期的に景気を底上げする効果は確かに存在する。初めは底上げでも徐々に体力を回復して、緩和政策をやめた後も自律的に景気を維持・拡大しつづけ、税収も回復し、財政も自然と再建されるという結果になれば大成功である。 又、そこまで上手くいかなくてもインフレ率が目標とするレンジまで上がってインフレ期待(懸念)をとりあえず定着させ、その後にインフレ下での景気回復を目指すことが可能になるかもしれない。
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110113/1294942665

という事になるだろう。


成功ケースで何が起こるかについては(怪しいものも含めて)他でも散々喧伝されているので、ここでは失敗ケース、或いは目標未達ケース、について若干考察を加えてみる。


まず、1の「 インフレ率がターゲットを早々に上回り、景気が本回復する前に引き締めざる得なくなる」についてはどちらかと言えば成功ケースと言ってよいかもしれないがここに着陸するのは簡単では無い。 現実問題として景気が(誰が見ても)良くなる前にインフレ率がターゲットを少しぐらい上回ったからといって簡単に金融引き締めに転じることが出来るとは思えない。 おそらくはなんだかんだと理由をつけて金融緩和を継続する可能性が高いだろう。 結局、この場合は2. 3. 4.のいずれかに行き着くまで高インフレ下での景気停滞を経験することになる。


2の「国債金利が高騰し、財政再建へと向かわざる得なくなる」のケースで何が起こるのかについては、過去のエントリー(「金融緩和の出口戦略が失敗する時」)内でも考察したが、一言でいえばスタグフレーションになる可能性が高い。  

インフレ期待の上昇に伴い国債金利がある程度上昇することは既に「0.」で織り込み済みであるが、それが上昇しすぎると新規の国債発行必要額が指数関数的に増加し、財政の維持可能性が疑われる状態になり、更に金利が上昇する。こうなると日銀単体としてはインフレに対するコントロールを失い、最悪の事態を避けるためには日銀は高インフレに目をつむり、かつ政府は財政再建をコミットすることが必須となる。 この時に必要となるであろう急激な財政再建・緊縮財政が短期的に経済にマイナスの影響を与えることは明らかであり、結果として高インフレ下での不況(=スタグフレーション)という事態が待ち構えていることになる。


3の「資産価格が高騰し、バブル抑制の為に引き締めざる得なくなる」はある意味非常にたちが悪いケースと言える。
バブルが進行し、かつそれを政府・日銀が放置している期間は、表面上は政策が成功しているようにも見える。 株価や地価が上昇することで直接的・絶対値的に損をする人間は居ないし、その影響で雇用も少しずつ回復し、財政も一時的には潤うだろう。 しかしバブルの問題は崩壊時に一気に顕在化する。 つまり1985年のプラザ合意後の円高不況から金融緩和、バブル景気、そしてバブル崩壊へと進んだ日本のケースや、ITバブル崩壊から金融緩和、バブル景気、そしてバブル崩壊へと進んだ米国のケースを繰り返すことになる可能性があるということである。 

ちなみにバブルの崩壊がマイナスのインパクトをもたらすとしても、デフレが続くよりは良いという意見もあるだろうが、筆者にはそうは思えない。 これも以前のエントリー(「「所得上昇なき景気回復」、「雇用なき景気回復」を経て「雇用なき株価回復」へ?」)で取り上げたが、バブル主導の景気回復で実質的に潤うのは良くて上位10%、悪くいくと上位1%程度である。 一方バブル崩壊時にはその痛みは下位99%にも及ぶ(むしろ下位になるほど厳しくなる)訳で、割が合わない。 このシナリオを本当に喜んでよいのは輸出中心の大企業とその株主、そして金融機関関係者くらいだろう。


いずれにしても賽は投げられたようであり、しかもいきなり思いっきり遠くまでぶん投げたようである。 賽が投げられた以上、同じ船に乗っている人間としては成功することを祈るばかりであるが、その場合でもこれからはリスクをとらない事がリスクになるターンが到来するという事を認識しなければならないだろう。 性分として「リスク回避的」な筆者としては気の重いことである。