最後まで誠実でありつづけた白川日銀前総裁について

19日、白川日銀総裁が4月8日の任期満了を待たずに退任した。  筆者は、リーマン・ショック、東日本大震災、欧州債務危機と日銀にとって非常に困難な情勢が続く中、国内の金融システム・経済への影響が最小限にとどまったのは氏の手腕によるところが大きいと評価しているが、リフレ派の宣伝の効果なのか、非難する声の方が大きいように見えるのは残念なところである。


「日本経済の悪い所は全て日銀のせいだ!」的な方々の批判を除くと市場関係者からの評価が厳しい。 米国のFRB議長が二代続けてグリーンスパンプット、バーナンキプットと呼ばれるほど良くも悪くも市場の期待(というか市場の欲望?)に応え続けているのに対し、白川氏が総裁であった期間、日経平均は低迷を続けていた。 これについてこちらの記事によれば、「副作用を強調し、自ら効果をそいでいる」(大手証券)というのが批判の一つのようだが、このような批判に対して白川前総裁は「政策の効果とコストを丁寧に説明することが、独立した中央銀行の誠実な対応」、「市場が望むことと、長い目で経済安定に望ましいことは必ずしも一致しない」と反論している。

こういった点が結果として「白川総裁は誠実だったが、国民を苦しめた」(浜田宏一)というような評価に繋がることにもなるのだろうが、そもそも日銀総裁は選挙で選ばれたわけでもなく、本質的には一官僚に過ぎない。 職務遂行に「誠実」さが求められるのは当然である。 例えコストを丁寧に説明することが、政策の効果を削ぐ可能性があったとしても、コストを知りつつそれを無いかのように説明する事は「誠実」な態度とは言えないし、長期的に見てプラスでもないだろう。その上で、結果として「市場の望むこと」に応えなかった白川前総裁の対応が、「長い目で見た経済安定」に望ましい事だったのかどうかは、「評価するには長い時間が必要」ということになる。


ちなみに筆者には「政策の効果とコストを丁寧に説明することが、独立した中央銀行の誠実な対応」という白川前総裁の姿勢と対称的に映るのが以下で示唆されるような一部のリフレ派の姿勢である。

飯田泰之氏

@ikedanob 「お金を刷ればデフレはたちどころに止まる」は運動スローガンでしょう.政策を実行までもっていくためには理論的な話から宣伝活動までさまざまな水準での主張が必要になるでしょう.

http://mobile.twitter.com/iida_yasuyuki/status/28582919132

上念司氏

http://ow.ly/ZlhV 私は「ハイパーインフレ」とか「国家破産」とかいったものを無批判に信じてしまう人たちをとりあえず正しい方向に向かせたいと思って書きました。トンデモを論破するにはある程度レトリックが必要です。 #デフレ危機_

http://twitter.com/smith796000/status/8070961222


別に飯田氏にしても上念氏にしても、人々を心から騙そうとしているという話ではなく、あくまで「彼らが信じる」正しい方向へと人々を導くためには様々な行動が必要になるという事を述べているのに過ぎないが、「運動スローガン」や「レトリック」を信じてついていった人が皆それらを「運動スローガン」や「レトリック」と理解しているわけでは無い。 後になって「いや、あれは「運動スローガン」、「レトリック」であり、本当はこうなんです。私は分かってましたけどね、」みたいな話はやはり「誠実」とは言えないだろう。


ともかく、白川前総裁、激動の5年間、本当にお疲れ様でした。