麻生財務大臣の日銀・金融政策観について

麻生財務大臣が岩田日銀副総裁の答弁に対して、否定的な見解を示したことが話題になっている。

麻生副総理兼財務大臣は21日の参議院財政金融委員会で、政府と日銀の共同声明に盛り込んだ2%の物価目標について「いきなりそこまでいくのは簡単な話ではない」と述べて、目標の達成には一定の時間がかかるという見方を示しました。

この中で、麻生副総理兼財務大臣は、元大学教授で20日に就任した日銀の岩田副総裁が就任前の衆議院議院運営委員会で2%の物価目標を「2年で達成できる」と答弁したことに関連して「学者とはこんなものか。実体経済が分かっていない人はこういう発言をするんだと正直思った」と述べ、否定的な考えを示しました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130321/k10013356431000.html


一部では意外感をもって受け止められたようであるが、麻生財務大臣の昔からの言動をみれば特に不自然な発言でもない。
 
10年以上前の話になるが、「ポストマネタリズムの金融政策 (翁邦雄)」の中で、2002年に行われた日銀による銀行保有株買取りに対して麻生政調会長(自民)から日銀に寄せられた批判について以下のように書かれている。

日本銀行が2002年に開始した銀行保有株買取りについて、ときの政権与党であった自民党の麻生政調会長(当時)は「政府の金融行政への日銀の介入だ。高い時に売り抜かないと日銀の資産が傷つく。国庫納付金も減る。損失は日銀に被ってもらうことになる。」と厳しく批判した。もし株価が大きく下落し日本銀行のバランスシートを毀損させていれば、日本銀行への信認、政府与党との関係、政策遂行能力などに大きな悪影響が及んだ可能性がある。


結果としては麻生財務相が懸念する状態は避けられたわけであるが、批判自体は極めて妥当なものと言える。 日銀の資産が毀損することは最終的には納税者の負担になる。 日銀が政府の支持なしにこのようなリスクを取ることは厳密に言えば政府機能への介入であり、日銀の裁量の範囲内と呼べるものかの判断が難しいところがある。


その後、様々な知見が蓄積されたことにより、当時と比べると日銀の裁量が広く認められる下地はできつつあるが、麻生財務大臣の考えが大きく変わっていないのなら、日銀がその本来の裁量を大きく離れて、「なんでもやって」物価目標を達成してほしいとは思っていないのではないだろうか? 

その後の記者会見で答えていたように、「日銀が金融緩和をしたとしても、政府の財政出動や経済成長など全部が動かないと時間がかかる。共同声明にも、政府と日銀が一緒になってやると書いてあるのだから日銀に責任を押しつける発想は間違っている。経済を成長させてデフレから脱却するのが最終目的だ」という非常にオーソドックスで経済観を持つ財務大臣と、リフレ派で金融政策だけでなんでも解決できると思っているようにみえる学者出身の日銀副総裁との組み合わせが今後、どのような軋轢を生むのか、或いは意外なケミストリーが生まれるのか、非常に興味深い所ではある。