TPPが壊すのは誰の既得権益か?

少し前から本ブログのエントリーはBlogosさんにも転載されているのだが、先日そのBlogosで以下のようなTPP推進論(TPP反対批判論?)を見かけた。


「TPP交渉参加と日本の農業問題」 -TPPで農業の"既得権益"に風穴を -
http://blogos.com/article/57480/


言わんとすることは分からなくはないが、筆者にはTPP反対論を唱えているのが既得権益者だとした上で、「既得権益打破」という「官僚叩き」と並んで国民受けのよい話に還元しようとしているように見える。


そもそも既得権益が打破されれば国民は幸せになるのだろうか?


筆者がこういった「TPP反対批判論」を読んで連想するのは「大規模小売店法廃止」時に起こった議論とその後の推移である。 この大店法の緩和・廃止は、商工会議所と既存の地元商業者の既得権を廃し、又価格の下落を通じて消費者の利益にもなったかもしれないが、その結果は本当に国民の効用アップにつながったのだろうか?
「中小規模店はその規模に見合ったきめ細かな対応をすることで大規模店と棲み分けができる」なんてことも、「既存の中小規模小売店が潰れた跡地に新たな業態の小売店が入り、更に商店街が活気付くことになった」なんてことも殆ど起こらず、地方の商店街の多くはいわゆるシャッター街となった。

もちろん、こういった問題の是非の評価は個人的な価値観に大きく依存するものであり、昔ながらの商店街より、値段も安くサービスも均質に行き届いているイオンが地域に一店あるほうが余程良いという意見もあるだろう。 筆者もそういった考えを否定するわけでは無い。


ただ、そもそも日本における最大の既得権益者は、日本に生まれたことで世界の殆どの人間より物質的に豊かな生活を保障されている全ての日本人であり、TPPはその既得権益を侵す可能性を秘めたものであることはもう少し考慮されるべきだろう。 この既得権益が壊されることで利益を受ける人は確かにいるだろうが、そのサークルの中に入るのはそれほど簡単なことではないかもしれないし、そのサークルに入り損ねる事が今手にしている生活(既得権益)をどれほど損ねるのかが十分に周知されているかも疑問がある。 
TPPへの参加は別に国際的な義務でも他国に強制されるようなことでもなく、各々の国民が自分で決めることができる話である。その判断を下す前に、国民は「日本人」という既得権益者の目で一人一人じっくりとTPPについて考える必要があるのではないだろうか。


[関連エントリー]

「池田信夫教授のエントリーでわかるTPPに反対すべき理由」
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20111106/1320627182


「いっそTPP「協定」より関税の一方的撤廃の方がまだマシなんじゃないの?」
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20111108/1320806113


「比較優位の原理は正しくても自由貿易で国民が幸せになるとは限らない」
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20111119/1321726328


「リカードが正しければTPP参加で労働者の実質賃金は下がり、資本家はさらに利潤を増加させる」
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20111126/1322363270


「混合診療の解禁は国民皆保険制度を如何に壊すのか?」
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20111111/1321009177