日本の財政問題は軟着陸できるのか??

手遅れ感漂う日本の財政問題が軟着陸できるかどうかという点については、筆者は「可能性はあるが非常に困難」という見方であるが、たとえそれがどれだけ困難、或いは不可能、であっても出来ること、やるべきこと、が無いわけではない。

例えるなら完全な軟着陸は無理でも、胴体着陸をする場所を選び、かつ燃料を使い切って被害を最小限に抑える努力は常に可能であり、操縦桿を握っているものの責務だという感じだろうか。


「財政問題の軟着陸」をいかに定義するかは難しい所であるが、その条件の一つは国債金利が安いうちに(長期で良いので)財政再建への道筋を確保しておくことになるだろう。

膨大な国債残高はそれ自体が財政の脆弱性を表しており大きな問題ではあるが、脆弱だからといって必ず破綻するというわけでは無い。今の超低金利状態をできるだけ引っ張り、その間に財政再建への道筋を提示できれば、(舵取りは困難だが)脆弱ながらも破綻せずに長期的に軟着陸できる可能性もある。国債残高を減らしていくのは理想的ではあるが、必須ではないし、極端な話、日本の場合、国債残高がいくらであっても財政均衡さえ達成できていれば、破綻時に必要な「緊縮」が軽度ですむわけで、経済への痛みも少しは抑えられるはずである。


国債金利が非常に低い、よって金利負担も残高を考えると非常に少なくて済んでいる、にも関わらずその歳出が歳入を大幅に超えている日本において、財政均衡への道筋を示すということは歳出を抑え、歳入を増やすという両面での対策を思いつく限り全てやりつくさねばならないことを意味している。


歳出を削る話は巷でも様々な議論がなされているので個別には取り上げないがなかなか削れないようなものも多いし、そもそも長期的な経済成長に必要な支出まで削ってしまっては長期的な財政再建は達成できないわけで、無駄な費用は勿論削られるべきであるが、量的には大きく(数割単位で)削る余地は無いように見える。 むしろ自然増をどれだけ抑えられるかが勝敗ラインだろう。


歳入を増やす話については財政タカ派(増税派)的なものと上げ潮派的なものとがあるが、筆者は上げ潮派は機能しない、機能するなら日本はとっくに財政再建できているはず、と考えており、やはり歳入増の主役は増税とならざる得ないと理解している。

世の中には増税するとかえって税収減になって財政再建に逆行するというような主張もあるが、余程のことがない限りそのような特殊なことは起こらないだろう。 実際に”高失業率+不況”という状況下で消費税の増税に踏み切った英国でさえ財政再建は進んでいる。その意味で野田政権がつけた消費税増税への道筋は方向性としては間違っていないはずであり、それがわかっているからこそ自公も合意したのだろう。

もちろん増税の対象は消費税に限る必要は無く、所得税の累進課税やキャピタルゲイン課税等も積極的に考慮すべきである。将来的に国債バブルが崩壊して円安に大きく振れた場合などは輸出企業を中心として(ドル建ての会社価値が維持されることにより)株価が高騰することも考えられる為、ここに網をかけておくのも有効かもしれない。


又、間接的にではあるが、財政問題の「胴体着陸」時の被害を最小限に抑えるのには、円高の内に海外投資を積極的に進めることもプラスになる。円高時に取得した海外資産は円安になれば2重に国内企業に利益をもたらし、痛みの緩和に役立つだつ。既にリーマンショック以降、日本企業は円高と(相対的に)健全な国内金融システムを背景に、資源や食料関連を中心に数多くの海外資産の取得を成し遂げてきており、これらの「円高を活かした」投資は、いざというときの日本経済の下支えになる。

日本政府も既に外国為替特別会計のドル資金(1000億ドル)を用いた資金枠を設定して企業の海外投資を後押ししているが、これは当面の行き過ぎた円高を抑える意味でも有効であり、効果的といえる。


つぎに少し小技?的な話にも触れると、金融機関の保有する国債の時価評価からの除外を含む新たな国際会計基準については日本では2015年から導入予定となっているが、必要なら前倒しすることも可能だろう。これがあるのとないのでは財政の脆弱性は大きく変わるはずであり、本質的では無いがインパクトは非常に大きい。

ただし、現状でも満期保有を目的としたものについては除外できるはずだし、直ぐに問題にならないようなら不要な懸念を招かないように予定通り2015年に導入すればよい。その先についても、幸か不幸か国債残高が問題となっているのは日本だけでなく、当面は国際会計基準等の新たな改正があるとしても、それが各国の財政にとってマイナスの影響を与えるようなものになる可能性は低いはずで、「国際基準」方面からの奇襲についてはそれほど気にすることはないように思われる(というかここまで来てしまうと気にしても始まらない、、)。

**ただ、米国の動きには注意する必要があるかもしれない。米国が検討しているボルカールールは、米国にとっては何らかのメリットが有るかもしれないが米国以外の国の財政にとっては脅威となりうるものであり要注意。個人的には一部で懸念されているようにこれで即日本国債終了となるとは思わないが、可能な限り反対すべきであろう。


裏技?的な話も加えておくと、日銀が金融政策と称して実質的に国債を下支えすることもやはり必要であろう。日銀が「デフレを避けるために量的緩和で国債を買ってるんだけど、幾ら買ってもインフレが上がらないんだよね。困ったなぁ」みたいな感じでどんどん買い進めば、その分だけ金利負担が更に軽減できる。日銀のバランスシートが拡大することにより中長期的なリスクは高まるが、”うまくやれば”財政再建の痛みを軽減できる可能性はある。

この裏技に必要なのは(少なくとも表向きには)日銀の政策が財政ファイナンスと見なされないように注意しつつあくまでデフレ対策(少なくとも雇用対策)と言い張れる範囲内でやることで、それが財政ファイナンスと見なされれば財政破綻のリスクは逆に高まることになるはずである。(ただし、先進国で当局が財政ファイナンスをおおっぴらに推進したケースは無いので、その影響は厳密には未確認とも言える。もちろん次期政権に試して欲しいとは全く思わないが、、)

ちなみに幸か不幸か日本がゼロ金利だ、量的緩和だ、と金融緩和で世界の先頭を走っていた頃とは違い、欧米諸国も追いついて?きており、既に先頭はFRBに譲った感じになっている。 こんなところで先頭を走るのはそれでなくても脆弱な日本の情勢にとって必ずしもプラスとは言えないわけで、様子を見ながら少し離れて目立たないように後ろをついていくというのが現実的な対応だろう。


さて、上記を読んでいただければわかるように、本エントリーで紹介した対策は既に行われていることが殆どであり、特効薬があるという話では無い。又、国民の厚生が上昇しながら財政再建まで可能!!!というようなものでもなく、痛みを伴いながら長期間かけて徐々に調整していくしかないよねという話で魅力的な話でもないだろう。結局、国民全体がその能力に応じて負担を分担しつつ、かつ日銀を含む当局もぎりぎりのリスクをとりながらなんとか騙し騙しやっていくしかないという事になるわけである。


最後に付け加えると、現時点で経済的に非常に困窮している人が、どうせ「駄目もと」なんだからといちかばちか的な劇薬を求める気持ちもわからなくもないが、個人的には全くお勧めしない。

ごく一部の人以外にとっては財政問題のハードランディングで「駄目もと」な状態が保たれたりはしない。歳入が歳出を大幅に超過しているのだから、もし今のままハードランディングすれば国民が享受している社会福祉のかなりの部分が消し飛ぶ。それを日銀引き受けで補おうとすれば、今度は円安による輸入品価格の急騰、特にエネルギー・食料価格の暴騰、が待っている。もちろんそんな状況で失業率が改善したりもしないし、下手すれば解雇された公務員で職安があふれかえることにもなりかねない。そしてこういった混乱に最も弱いのは、今現在既に経済的に弱い立場に立っている人間である。

よってたいして楽しい話ではないかもしれないが、(主観的には)困窮しながらも、なんとかやっていけている人にとっては税金をもっと払える能力のある人間が税金をもう少し払ってそれなりの社会福祉・セーフティネットを維持したまま財政再建を進めることが地味ではあっても遥かにマシなやり方だと思うのだが、いかがだろうか?