原油先物市場における投機と需給のせめぎあいについて

以前のエントリー「原油価格高騰と先物市場での投機の拡大の関係について」で原油価格の高騰と投機の関係について考察したが、少し局面が変わりつつあるようなのでUpdateしてみたい。


ある財が投機の対象になる条件の一つとしては価格が上がっても容易に増産できないものであることが重要である。 不動産や金、絵画などはまさしくこれに当てはまる。

一方で原油・天然ガスを考えると、短期的にはこれに当てはまるが、中長期的には不動産などと比べると価格上昇が増産を促す余地が大きい。 不動産や絵画などは幾ら価格が高騰しても、単純に絶対量が増加して値崩れする可能性は低いが、原油や天然ガスにはその可能性があるという事になる。


で、実際に現在のマーケット(特に米国の)を見てみるとそれに近いことが起こっているように見える。

以下はロイターの記事であるが、この日に限らず、最近のNY原油の相場は投資家(投機家)のリスク選好による上昇圧力と在庫の積み増しを受けた下落圧力のせめぎあいになっている。

NY原油、6日ぶり反落=在庫積み増しを嫌気〔NY石油〕(12日)
2012年09月13日 06:46 JST
 【ニューヨーク時事】12日のニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相場は、予想外の原油在庫積み増しを嫌気して売られ、6営業日ぶりに反落した。米国産標準油種WTIの中心限月10月物は、前日終値比0.16ドル安の1バレル=97.01ドルで終了。11月物も同幅安の97.34ドルで引けた。
 朝方は、ドイツ憲法裁判所が欧州安定機構(ESM)の発足を認める判断を示したことを好感して、投資家のリスク選好が拡大。ドルが対ユーロで一段安となったことも追い風となり、原油相場はしっかりで推移した。
 この後、米エネルギー情報局(EIA)が公表した週報によると、7日までの原油在庫は前週比200万バレル増と市場予想(260万バレル減=ロイター通信調べ)に反して大幅な積み増しとなった。これをきっかけに需給緩和懸念が再燃して売り込まれ、一時96.31ドルまで下落。ただ、12、13両日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果待ちの姿勢が強く下げ渋った。

こういった現象は近年の原油価格の高騰が、長期的な需給予測が先行して価格が上昇したのでなく、投機的な資金の流入が先行して需給に影響を与えてきたという事を示しているように筆者には思える。


前回のエントリーで紹介したクルーグマンの解釈では、本来先物市場と現物市場は無関係で、先物が現物を動かすのは、両者の間で裁定取引が発生した時で、それが起こった時には在庫の増加が観測されるはずだ、と説明されているが、現在起きていることは裁定による在庫の増加というより投機によって先物市場と現物市場が共に急騰し、長期的に需給がバランスする価格を上回り続けたことによるものと考えるほうが分かりやすいのではないか。


ただ、これが長期的な原油価格の下落圧力になるかと言えば、そう簡単にはいかないかもしれない。 潜在的には原油需要が世界的に増加していることは事実であり、一方で供給の方はそれほど簡単に伸ばせない段階に入っている。 又、前回のエントリーでも述べたが、高油価を背景に多くの産油国は国の取り分(税金等)を大きく増やしており、石油開発企業としては以前の石油価格では採算が取れなくなっている。
これらの要素を考えると、各国が共同でコモデティへの投機資金の流入に規制をかけるか、或いは何らかの理由で投機的な資金が一斉に逃げ出すようなことでもない限り、投機的資金は需給が一定範囲内に納まるぎりぎりの原油価格を模索し続け、その高油価による弊害は先進国だけでなく発展途上国を含む世界経済に影を落とし続けることになるだろう。