コモデティバブルはいかに起こったのか?

前回のエントリーではコモデティの先物取引価格の国際商品指数であるCRB-CCIがQE1開始からQE2終了までの2年強の間にFRBの動きに連動する形で350から650へと急騰した事について書いたわけだが、それについて以下のようなコメントを頂いた。

本当は、単なる金融危機で大きく落ち込んだ水準から元のトレンドへの回帰である。もちろん、FRBがQEなどの適切な政策を取らなければ景気が腰折れして元のトレンドへと帰ることも出来ないので、局面局面においてはFRBの政策に反応するのは当然である。


実際、2000年末の227.84から2007年末の485.02(2008年前半の動きは無理な投機ということで使わないことにしよう)の平均年率伸び11.4%のトレンドを、2000年末から伸ばせば、2011年末は832である。2007年も既に無理な投機的動きがあったとして、2000年末〜2006年末の平均9.6%を使って伸ばしても624である。


結局、2000年代に入り新興国が発展を本格的に遂げるようになってきたことによる需要の強まりがコモディティ価格上昇の主因であり、現在の値動きは金融危機でトレンドを逸れた価格が元のトレンドに回帰している過程である。FRBのコモディティ価格に与える影響は、そのトレンド回帰がスムーズに行くか行かないかを通じた程度のものでしかない。


要は

  • 2000年代以降のコモデティ価格の急上昇は(さすがに需要増のせいにするのは難しい一時期を除き)新興国の需要増によるものである。
  • よって年率10%程度の上昇トレンドは実需から十分に期待できるものであり、量的緩和実施後のコモデティ価格の急騰もトレンドへ回帰しているだけである。
  • 金融危機等で一時的に上昇トレンドから乖離してもFRBが適切な?金融政策を取ればトレンドへの回帰はスムーズに行われる。

という事になるのだろうか、


なんというか金融機関によるコモデティファンドの売り文句でも見ているようである。


今の世の中で10%もの価格上昇トレンドが実需によって裏打ちされているものが本当にあるなら、だれもそんな機会は見過ごさないだろう。 一工夫すればこの商品指数に概ね連動するようにコモデティファンドを設計することはそれほど難しいことでは無い。 本当に10%もの価格上昇が期待できるのであれば、将来にわたって現物を持つ事も必要とする事もない人々にとっても先物市場は格好の金儲けの場になる。

土地や住宅には既にそのような右肩上がり幻想は(日本だけでなく他の先進国でも)存在しないし、株価は一応、企業収益や配当などの適正価格の目安になるものがあり、どこかで調整がはいるという予測が少しは働く。 しかし、コモデティは価格が高騰しても、必需品であるだけに結局それに準ずる価格で人々が(苦しみながらも)日々消費していくわけで、投機家にとっては非常に都合がいい側面を有している。 


問題はその様にして資金が集中しても、これが「投機」であるが故に、ネガティブフィードバックが掛からないことである。

通常、ある市場において既存の企業が超過利益を得ていれば、新たな資金の流入(投資)が起こるが、その場合その市場では競争が生み出され、超過利益は解消される。しかし、コモデティ先物市場に資金が流入した場合、それは更なる価格の高騰を通じて高い利益率をもたらす。 これを繰り返して投機がどんどん加熱していくわけである。

以前のエントリー(「投資」と「投機」の違いについて)でも書いたが、新規投資による市場の超過利益の解消は新規投資者だけでなく消費者にも利益をもたらすが、投機の過熱によるコモデティ価格の高騰は消費者になんら利益をもたらさない。 端的に言えば、ヘッジファンドと産油国、生産企業が儲かるだけである。そして価格高騰によって産油国にもたらされた莫大な利益は米国市場に還流して新たな余剰資金となり、ヘッジファンドの元手となって更に事態を加速させる。


更に性質が悪いのは、3. のFRBによる価格の下支えが実際に行われているように見えていることである。 

もし10%の価格上昇トレンドが実需によって裏打ちされており、さらに金融危機などのケースでもFRBが適切な?対応をとって速やかにそのトレンドに回帰させてくれ、しかもこの回帰が危機後の景気回復と関係なくあっという間に行われるのであれば、投機をためらわせる理由は更に小さくなる。 


そもそも先物取引にはインカムゲインが存在せず、単に値動きにはっているだけであり、基本的には参加者の中で勝つ人間がいれば負ける人間が居るというものだったはずである。それを金融商品化し、「実需に支えられた上昇トレンド」という看板を掲げてさらなる資金を呼び込み、しかもいざとなれば株式市場とセットでFRBがプットしてくれるとのコンセンサスが高まれば、投機参加者が総じて勝ち続け、消費者が負け続ける状況が今後も続いていく可能性がある。 結論は前回と同じであるが、商品デリバティブを推し進めるヘッジファンドやその価格を下支えするような金融政策の是非についてはより真剣に検証される必要があるということである。


[追記]
ヘッジファンドの動きとコモデティの商品指数の関係が良く分かる図がダイヤモンドオンラインにあったのでコメントと共に紹介。 
前回紹介したのとは違うコモデティの商品指数であるが2000年代初頭からヘッジファンド筋のネットポジションが急増し始め、それと共にコモデティの商品指数が急騰している。 生産も消費もしないヘッジファンドによるポジションが先物価格をいかに歪めているかよく分かるのではないだろうか、

 主要商品9種のヘッジファンドのポジションを合計すると、リーマンショック前のピークを更新し、過去最大にまでふくれ上がった。FRBが雇用の改善を目指して流動性を供給すればするほど、ヘッジファンドは喜んで投機にまい進することになる。

http://diamond.jp/articles/-/10629?page=2