崩壊しないバブルは良いバブル?

バブルの崩壊が実体経済に深い爪あとを残すことを否定する人はさすがに殆どいないだろうが、一方で崩壊しさえしなければバブルは悪いものではない、という見方もあるようである。(或いは「崩壊するまではバブルではない(キリ」とか、、)

しかし、筆者は崩壊する前からバブルはある程度検知できると思っているし、そのバブルの生成自体にも大きな問題が潜んでいると考えている。


例えば住宅バブルについて考えてみる。 バブルを事前にはっきりとした形で認識することは確かに難しいが、住宅バブルであれば「住宅価格が賃金よりも高い伸び率で上昇する」という現象がバブルの時期(或いは事後的にバブルだったとされた時期)に起こることを否定する人は居ないだろう。


そしてこれが意味しているのはバブルはたとえ崩壊しなくても格差の拡大を加速させるものだという事に他ならない。


住宅バブルで最初に利益を得るのはいわゆる地主であり、(居住用ではなく)資産として住宅を持っていた人々である。この人々は殆ど何のリスクもなく資産がどんどん膨らんでいくわけであり、濡れ手に粟といった状態である。


次に利益を得るのは、「コストの安い資金」にアクセスできる人々だろう。 バブルの生成過程における住宅に対する投資(投機?仲介?)では期間をおいて転売することによって大きな利ざやを稼ぐことができる。 その典型例は地上げ屋であるし、その背後にいる金融機関もこの分類に入る。


居住用の住宅を既に持っている人間は一見勝ち組のようにも見えるが実際にはさして得をするわけでは無い。 そこに住み続ける限りは住宅から受ける効用は価格が上昇しても変わるわけでは無いし、過去に支払った費用も変わらない。 しいて言えばバブル景気で金利が上昇したり、固定資産税が上がったりする分だけ損失を被っているとも言える。

将来的な住み替えを考えている場合、一見住宅価格が上がった方が良さそうだが、これも必ずしもそうとは言えない。もし住み替えに際して住宅をグレードアップさせたいのであれば、追加で資金が必要となるが、この必要な資金はバブルが進むほど負担が重くなっていく。 むしろ住宅価格が値下がりした方が住み替えで家をグレードアップさせやすいとも言える。


住宅を賃貸で借りている人間にとっては住宅価格の高騰に伴う賃貸コストの上昇は住宅以外に使える可処分所得を目減りさせる。 また将来的に住宅を買おうという人間にとっても状況は同じである。 つまり住宅を所有していない人間にとってはバブルが進めば進むほど生涯賃金に占める住宅に掛かるコストが増加し、その他の消費にまわせる所得が相対的に圧縮されるという事になるわけである。 

これらの人々にはまだ生まれていない世代も含まれる。 つまり「住宅価格が賃金よりも高い伸び率で上昇する」ということは将来世代から一部の現役世代への富の移転の効果もあるということになる。


つまり、持てざるものの可処分所得を圧縮することによって、持てるものの資産を増やし、その過程でそれを仲介するものに大きな利益をもたらすのがバブルの生成過程であるということであり、筆者の価値観から言えば、たとえ崩壊しなくてもこういった格差の拡大につながるバブルの生成に問題がないとは思えないのである。


[追記]

もちろんバブルの崩壊はバブルの生成よりはるかに大きな問題を生じさせる。

上記のバブルで儲ける人々のうち、「コストの安い資金にアクセスできる人」はバブルが拡大しているうちは大きな利ざやを稼ぐことができるが、彼らはその為に大きなリスクを取っている訳であり、一度行き詰ると巨額の損失を残して破綻する。 これがその儲けた人々の手持ちの資本で賄えるなら自業自得ということで大きな問題ではないのかもしれないが、実際には彼らは「コストの安い資金」を金融機関から引っ張ることで自己資本を遥かに超えるリスクをとっているケースが多く、これらの損失は不良債権として金融機関に残る。 金融機関が巨額の不良債権を抱えることが如何に広く国民に負担を強いることになるかは説明するまでもないだろう。

つまりバブルは生成時には格差拡大を後押しし、崩壊時には経済全体を巻き込んで多くの人に負担を強いる。 多くの人々にとっては長期的に見ればバブルに良いことなんてなにも無いというのが本当の所であろう。