米国の「景気回復」と失業率の推移について

米国の3月の雇用統計は、非農業部門の雇用者数(季節調整済み)が前月比12万人増と予想の20万人増を大幅に下回った一方で、失業率は8.2%と前月の8.3%を下回った。

最近の米国の失業率の改善(といってもまだ8%以上あるわけだが)の要因として、労働参加率の低下があるのではないか、というのは以前から言われている話ではあるが、今回の雇用統計でもこの傾向が明らかになったということだろう。 


以下は「Real Jobless Rate Is 11.4% With Realistic Labor Force Participation Rate」という記事にて紹介されていたグラフであるが、仮に労働参加率を過去30年平均(65.8%)として計算しなおした場合の失業率(赤線:Implied Unemployment Rate)は全く改善していない。 



グラフに示されている通り、この二つの失業率の間に差があるのは今回に限ったことではないが、これだけの期間にわたって一方が下落する中で一方が上昇・停滞しつづけたことは稀であり、今回の景気回復の特徴と言えるかもしれない。


また、これはアメリカにおける生活保護の一種であるフードスタンプの受給者が絶対数で見ても率で見てもウナギ昇りであることとも整合的である(下図参照)。 この増加の勢いは雇用統計発表における失業率が改善に転じた後も、大して変っていない。



(参照:Infinite Unknown


一か月ほど前の「himaginaryの日記」様の「景気回復の成果が殆ど上位1%の人たちに吸い取られた件」というエントリーでは今回の景気回復の成果が所得上位1%の人間($352k以上)に吸い取られているのではないかとの指摘が取り上げられていたが、失業率の改善が労働参加率の下落で説明がつく程度のものしかないような状況なのであればそれも不思議ではないだろう。


果敢な金融政策に支えられた「景気回復」は、株価と(一部企業の)企業収益を底上げすることには成功したが、その果実は所得面では上位1%に集中し、雇用面では長期失業者の労働参加率の低下で説明できる程度にしか失業率改善に寄与せず、その間も生活保護(Food Stamp)の受給者は増加し続け総人口の15%に達しようとしている。


米国経済は統計上は「景気回復」しつつある。 しかしこの「景気回復」は多くの人の実感とはかけ離れている。金融政策による株価の下支え(バーナンキプット)や通貨安誘導が企業や一部の資産家に利益をもたらすことは明らかだが、そこから多くの国民へとトリクルダウンwするかどうかは明らかではないようである。

逆に言えば、現代の「景気回復」にとっての必要条件は株価、企業収益の改善で、雇用の改善は「景気回復」の必要条件ではなく、また「景気回復」が雇用の改善の十分条件でもない。そして「景気回復」が雇用の改善の必要条件であるとしても、「景気回復」にとっての雇用の改善は派生的に生じるものに過ぎなくなっている、ということなのかもしれない。



[追記]
ちなみに、雇用統計の失業率の改善を額面通り受け取るとしても、不況に入ってからの雇用の回復としてのパフォーマンスは第二次世界大戦後の不況の中で群を抜いて最低である(下図参照)。 人口増加率、潜在成長率が共に(相対的には)高い米国では過去の不況期にはせいぜい2年ほどで失業率が元の水準まで回復しているが、今回は2年過ぎてようやく(雇用統計上の数値では)ピークアウトした程度である。


(参照:Calculated Risk


参照:「QE2(米国版量的緩和)は何を解決したのか?」
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110725/1311637670