輸入インフレと輸入デフレについて

前回のエントリーでは原油価格が物価指標としてのインフレ率に与える影響について書いたが、これはいわゆる「輸入インフレ(圧力)」の話である。 


「輸入インフレ(圧力)」があれば「輸入デフレ(圧力)」も当然存在する。 (輸入インフレ圧力は認めても輸入デフレ圧力は絶対に何がなんでも認めないという人もいるが、その非対称性は筆者には理解できない。)

その筆頭はテレビやパソコンなどの家電・IT機器であろう。 これらの物品の値下がりには生産性の向上という面も含まれるが、中国の通貨政策による所も大きい。 彼らは為替操作を行って通貨を安く抑え、それによって多くの家電やIT機器の国際的な価格の下落を加速させている。


結果として現在の日本では


エネルギー価格(輸入品)の物価上昇率

国内の需給で決まる物価上昇率

家電等の工業製品(輸入品)の物価上昇率


という関係が長期にわたって成り立っており、輸入インフレ圧力と輸入デフレ圧力の双方が存在し続けていることが分かる。 


念の為に書いておくと、これらはインフレ(デフレ)圧力とはなっているものの必ずしも決定的な要因というわけではないだろう。 ただ、こういった「日銀のせいにできないようなインフレ・デフレ圧力」の存在自体を否定するような結論ありきの議論が横行しているのは困りものである。


又、エネルギー価格の上昇は「一時的な」インフレ要因となっても「長期的には」相対物価が上がっただけで一般物価とは関係ないという意見もよく耳にするが、そもそもこういう人の言う「長期的」な状態なんていつ来るのだろうか?? 

少なくともそのようなありがたい「長期的な」状態になっている国は過去十年間以上世界のどこにもなかった。 なぜなら前回も書いたようにエネルギー価格は過去10年間以上にわたって金融危機などのごく短期間を除きトレンドとしては常に上がり続けていたからであり、このような相対物価の長期的な上昇トレンドが物価指標に対して長期にわたってバイアスとなりつづけるのは当然である。 


筆者はこういった実体的な要因によって生じるインフレ・デフレ圧力に一々金融政策が過敏に反応すべきとは全く考えていない。 そもそも単なる経済の一指標であるインフレにだけ明示的な目標値を定めて右往左往するような金融政策には反対と言うのが筆者の立場である。 
要は国内需給できまる部分でスパイラル的な物価の変動(インフレ・スパイラルやデフレ・スパイラル)に陥らずに物価水準が安定さえしていれば金融政策の一義的な目標(物価の安定)はクリアしており、その状況下で長期的な金融システムの安定(バブルの事前防止)を可能な限り目指すのが中央銀行がなすべき事ということであり、それ以上のこと(景気対策等)を金融政策に求めるのは本来の責務をリスクにさらす行為に他ならないだろう。