「インフレが人々の消費を活性化する」は本当なのか?

インタゲやリフレ政策を支持する人々の主張の一つに「(マイルド)インフレは人々の消費を活性化させる」というのがあるが、これは筆者から見ればリフレ派の主張の中でも最も理解しがたいものの一つである。 


その背景となる主なロジックの一つは以下のようなものだと理解しているのだが、正直なぜ多くの人々がこれに納得しているのかわからないい。

  • インフレになればお金の価値が下がっていくのでお金を手に入れればなるべく早く遣おうというようになり消費が活性化される。 (逆にデフレ下ではお金をもっているだけでどんどん価値が上がっていくから購入を先延ばしにしようとする動機が働き、消費が抑制される)。

つまり物価が上がっていくという予想だけでみんなどんどん消費をするようになるというのである。 

個人的には全く実感がわかない話である。景気が良くなれば消費も増えるし、消費が増えればインフレも進む。これはわかる。 しかしインフレが進むという予測だけで消費を増やす動機が各個人に生じるなんてことは想像しづらいし、個人レベルでおきない事がマクロレベルで起こるという類の話でもない。

あえて、このロジックを正当化しようとするなら消費税上げ前の駆け込み需要的なものが連続的に起こるような状態を想定する必要があるのかもしれないが、あれはあくまで期日がはっきりしているから起きる事象だろう。それなら消費税を毎年上げていけばいいのではないかというような論もあるが、そういった論がリフレ派に支持されているという話は聞かない。

又、「購入を先送りする」ことができるのは主に「耐久消費財」ということになると思うが、デフレ論を主張している代表的な論者である高橋洋一教授や上念司氏などは人口要因デフレ論を否定する中で、人口減少は耐久消費財の需要減少、価格低下にはつながりうるが、それは個別価格の低下であって一般物価の低下であるデフレとは全く別物である、と説明されている。消費財の一部にすぎない「購入を先送りできる物」の需要や価格がどうなろうが、それはミクロ的現象であってマクロ的現象であるデフレの原因にはならないという理屈なら、逆にこの先延ばしにしていた消費の前倒しが起こったとしても消費の活性化やインフレには繋がらないはずじゃないのだろうか?


その他のロジックとして

  • インフレになれば人々は現在よりも、より多くの、或いはより高額なものを買うようになり消費は活性化される

というようなものもあるようであるが、これも全く実感がわかない。 今後どんどん食料品の価格が上がっていきそうだから、今日は鉄火巻きじゃなくトロを食べよう!となることなんてあるだろうか??

これも結局「景気が良くなればより高いものが売れるようになる」という非常に当たり前の事を、「景気が良くなるとインフレが進む」という経験とごっちゃにしているだけにしか見えない。 


「(金融政策で)インフレにすれば景気が良くなる」というリフレの命題自体は一般論としては必ずしも否定するものではないし、そのロジックとして実質金利が下がることや、実質賃金の調整が容易になること等それなりに納得がいくものもあるが、少なくとも「なぜインフレにすれば景気が良くなるのか」の理由付けとして、「インフレにすれば消費が活性化されるから」というものを持ってくるのはナンセンスにしか思えない。 これは景気が良くなるから景気がよくなるといっているようなもので、景気が悪い状態からインフレにすることによって景気が良くなる状態へと遷移するメカニズムを示しているとはいえないというのが筆者の理解である。


[追記]
あえて言えば「インフレになれば景気が良くなる」と多くの人が信じ込んでいるなら自己成就的に「インフレになれば景気が良くなるに違いない」、「景気が良くなれば今後の所得もどんどん上がるに違いない」、「今後の所得がどんどん上がるなら今もっとお金を使ってもいいよね」って感じで「インフレになれば消費が活性化される」という事象が起きることもありえなくは無い?かな???