出口戦略としてのFRBによるインフレターゲットの採用

忙しくて余り更新ができていないのだが、FRBがインフレ目標政策を(実質的に)採用したとのニュースが注目を集めているので、少しだけ考察してみる。


ネットではこのニュースに対してリフレ派の人々からは当然のように好意的な評価が相次いでいるようである。 

「インフレ目標」という制度への支持という立場からは前向きな評価となるのは当然であろうが、一方で不思議なのは今回のニュースが一部ではなぜか「FRBはインフレ(PCE)が2.0%になるまで今後もリフレ(金融緩和)を拡大していく」という風に解釈されているように見受けられることである。


筆者が勘違いしているのでなければ、米国のPCEは既に2%を越えており、今回のインフレターゲットの導入とそれに伴う声明は、

  • 足元ではインフレ率は高いが、FRBは長期的にはPCE 2.0%を超えるインフレは許容しないから、インフレがどんどん高騰していくような事態は心配無用ですよ

という意味なのではないのだろうか? また、同時に

  • 足元のインフレ率は既に目標とするPCEより高く、FRBは金融政策でやれることはやっている。 雇用については長期的には重要な目標ではあるものの、短期的にみれば現時点でFRBにやれることは限られてますよ

ということも主張しているように見える。 要は英中銀が現在とっているポジションとほぼ同じある。


これが、PCE 2%ではなく4%であったり、コアCPI (or コアPCE)での足元の数字を明らかに上回る目標設定だったりすれば話は別で、「まだ目標を下回ってるのでこれからもどんどんリフレをやって景気回復、雇用回復を推し進めますよ」という意思表明となり、「まだまだ米国はリフレが足りない」と主張していた人々の意向にも沿うものなんだろうが、そういう話にはなっていない。


つまり今回のインフレターゲットの導入はリフレの更なる拡大・推進を宣言したというより昨年から一部で報道されていたリフレに対する「出口戦略」に近いものというのが筆者の理解であり(参照「FRBにインフレターゲット支持広がる、出口戦略にらみ」)、更なる大胆な金融緩和でもっともっと景気・雇用回復を後押しできるはずだと主張していた人々にとっては失望を誘うものだと思うのだが、そういう意見が少なくとも日本のリフレ派の中ではあまりみられないのは不思議である。

「FRBにインフレターゲット支持広がる、出口戦略にらみ」(ロイター)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-21711520110615


前例のない金融刺激策が、FRBのインフレ対応に対する国民の信頼感を損ねるかもしれないという点は、ハト派、タカ派の共通の懸念だ。

FRBは今月、量的緩和第2弾(QE2)を予定通り終了する公算。 

セントルイス地区連銀のブラード総裁は先週、ロイターに対して「金融政策は非常に緩和的だ。インフレが抑制できなくなるのではないか、との懸念につながっている」と指摘。明確なインフレターゲットは、こうした懸念を和らげるうえで「強力な効果」を発揮する、と主張した。


バーナンキ議長は長らくインフレターゲット導入を主張してきた。FRBは09年以来、地区連銀総裁と理事の長期的なインフレ予想を公表しているが、これは2%前後の非公式なインフレ目標とほぼ一致する。

セントルイス地区連銀のブラード総裁は、今はこれを明確なターゲットにするべきときだ、と訴える。「委員会全体が同意することを望む。(バーナンキ議長が)それを実現できるよう、私も尽力するつもりだ」と述べた。ブラード総裁の政策スタンスは、タカ派寄りとされている。 

一方、ハト派とされるクリーブランド地区連銀のピアナルト総裁も、米連邦公開市場委員会(FOMC)がターゲットを採用するのに「絶好の」タイミングと述べた。総裁は先月、クリーブランド地区連銀の年次リポートで「インフレの明確な数値目標があれば、FRBが将来、金融政策の引き締めを決める際に、説明しやすくなる」との見方を示した。

[追記1]
ちなみに少しググってみると「CPIではなく、食品とエネルギー価格を除外したPCEで評価する。」というように解釈が幾つか(参照)みられたが、本当なのだろうか? 確かにコアインフレを目標とすべしというのは英国のケースでも一部のリフレ派がかねてから主張していたことではあるが、筆者が読んだ範囲ではコアでの目標設定では無いようなのだが、、


[追記2]
こういった金融政策の目標を明示的に公表する類の政策についてはメリット、デメリット双方が存在する。 筆者はどちらかといえば明示的に公表しないほうが良いと考えているが、インタゲという制度自体が致命的な欠陥を持っているとまでは考えていない。 ただし、例えば日本において「コアCPI 4%」を目標とするようなインタゲの導入は弊害が大きすぎると考えている。要は経済(潜在成長率)に見合わない高いインフレ率を目標とするような過度な金融緩和に繋がる政策には反対という立場である。

いずれにしろ今回の場合はあくまで「ソフトな」目標の公表ではあるが、それがどのようなメリット・デメリットを持つかについては現時点では評価が難しいだろう。