混合診療について(追記)

コメント返信用追記。


先日エントリーした混合診療に関して二つ記事について、参照として関連する幾つかのグラフを以下に示す。 グラフは何れも以下のワーキングペーパーからの引用。


「後発医薬品はわれわれを幸せにするか
−後発医薬品の経済的側面からの考察−」
http://www.jmari.med.or.jp/research/dl.php?no=365



図4-1は特許期間が有効な新薬と後発医薬品の価格の国際比較。 特許による独占が切れた後発医薬品についてはこれらの先進国間では大きな価格の差がなく、競争によって適正な価格に収斂している様子が伺える。 一方で特許によって守られている新薬については国ごとに差が大きく、日本は米国の3分の1程度の価格となっている。


一方で図1-1にみられるとおり、後発医薬品のシェアという観点からは日本は数量ベースでも金額ベースでも最も低いシェアとなっている。 アメリカは数量ベースで63%と最も高いシェアとなっているが金額ベースで13%と日本についで少ない。 図4-1と併せて考えると、数量ベースで37%を占めている特許期間が有効な新薬が米国においていかに割高かという事が分かる。 ざっくり計算すると、新薬の数量あたりの金額(単価)は後発医薬品の約11.4倍となっている。


また、同レポートによると地域別医薬品売り上げ(2006)は日本が57億ドルに対して、北米は290億ドルとなっており、人口比を考えても北米の人々が医薬品についは日本よりかなり高い。 (しかもそれでも薬剤費が医療費に占める割合は日本の方が高いらしい。)


これらが、日本では認可されていない高額なしかし有効な医薬品や医療技術が米国では使われており、日本では救われないであろう多くの(富裕層の)命が救われているという事であれば、一概に否定されることでは無いかもしれないが、規模的にはみて一部の富裕層向けの高額サービスの存在がこれだけの差を作り出しているとは思えないし、アメリカの個人破産の半数が医療費が原因という話も考えると日本の制度はアメリカの制度より全体としてはより機能していると言えるだろう。


しかしながら、日本の医薬品の使い方に全く問題がないかといえばそういうわけでもなさそうである。 後発医薬品のシェアに見られるように、日本では新薬の特許が切れた後も後発医薬品への代替が余り進んでいない。 これは医薬品販売に関わるマージンを考えると医療機関側に後発医薬品への代替を積極的に進めるインセンティブがないことに加え、患者側にとっても個人負担が低いため個人レベルではコスト削減のインセンティブが十分に働かないことが問題だろう。


皆保険制度や医薬分業等の制度を取り入れても、医療機関側はその制度内で自己の利益を最大化しようとするのは避けられないし、むしろ当然のことである。 制度はゲームのルールにはなっても、直接的に全ての当事者に望ましいと考える行動を取らせることはできない。 当事者はゲームのルールを理解し、競合相手を含めた他者の行動を予想した上で自己の利益を最大化するための戦略を立てて実行し、それが全体として均衡して一つの状態が出来上がる。

よって今の制度内に問題点があったとしてもその問題点だけを局地的に手を突っ込んで直すことは難しい。 制度(ルール)を変える場合には、その変更によってゲーム全体がどのような新たな均衡点へと導かれるのかをよく考えなければ、現時点で実現している価値を台無しにしてしまいかねないはずである。