税収弾性値 「4」 の意味

現在進められている財政再建・増税を巡る議論では様々な意見が見られるが、その中でも金子洋一議員や高橋洋一教授は過去15年の税収のGDP弾性値の平均が「4」であることに着目し、名目成長4-5%が達成できれば財政再建は可能であると主張されているので、少し検証してみる。

(税収弾性値とは名目GDP1%増に対して税収増が何%になるかをあらわしており、これが「4」であれば、単純計算上は名目GDPが5%増えれば税収は20%増えることになる。)


まず、このような高い税収弾性値を主張する人は同時に財務省が採用している税収弾性値(1.1)を批判していることが多いが、財務省の税収弾性値は長期での税収弾性値であり、上記の「4」は短期での税収弾性値であることを区別する必要がある。


この区別は一見おかしなように聞こえるかもしれないが、以下のように図示してみれば何が起こっているか分かりやすい。

これらのグラフは、長期の税収のGDP弾性値を1、1.5、−1とした仮想の名目GDP、税収の(初年度を100とした)推移であるが、どのグラフも年単位で見た税収のGDP弾性値の平均は「4」である





つまり長期トレンド(A)に沿って名目GDPが波うちながら上昇し、税収がその「波」に過敏に反応しながら長期トレンド(B)に沿って上昇(下降)する場合、短期で見た税収のGDP弾性値の平均は長期的なGDP弾性値(長期トレンドB/A)と独立して存在するということである。

金子議員が指摘する税収のGDP弾性値「4」はこの短期の振幅の大きさを表しているものであり、長期的な税収弾性値とは直接的には関係がないことになる。


ではこの短期の税収弾性値「4」を活かして財政再建できるだろうか?


筆者の見解としては可能性が無いとは断定できないが、それほど見込みがあるとは思えない。


まず短期で名目成長率を5%にすれば税収が20%伸びる、という見込みは対象とした期間(1995-2009)の名目成長率の変動のレンジを大幅に超えており、弾性値「4」がそのまま当てはまるとは思えない。 そして長期でみれば名目GDPは1995年からリーマンショック前の2007年までの12年間で4%伸びているが、その間に税収は16%増えるどころか2%のマイナスになっている。


経済成長にともなう税収の増加により財政再建を実現すべきという主張自体は別におかしなものではないし、そのような試算も机上であれば色々と可能と考えられるが、この税収弾性値「4」をふりかざすのは、蛇足ではないだろうか?


[参考] 名目GDPと税収の推移 (1985-2010)