「リフレ先進国」韓国の現在

英国、米国と書いたので、ついでに韓国についてももう一度書いてみる。

韓国については以前に「リフレ政策は本気で「韓国」を目指す気なのか!?」でも書いたが、リフレ派的にはなかなか評価の高い国である。 前回取り上げた原田泰氏だけでなく飯田泰之氏も韓国の金融政策を日本より上手にやっていると評価されている。


確かに韓国の金融政策は以下に示すとおりリフレ的に「正しい」とされるものが多い。

1. インフレターゲットを採用。しかもそのターゲットはコアCPI 3%と高め。

2. 既に中央銀行による国債の直接引き受けを実施したことがある。

3. 為替介入で通貨安を維持しようとしている。

4. 中央銀行のバランスシート毀損を恐れていない(ように見える)。


4について補則すると、韓国の中央銀行である韓国銀行は世界でも稀な赤字を出している中央銀行である。
その主たる要因は通貨安定証券というものらしく、これは為替介入で市場に供給したウォンを回収する為に韓銀が発行している債権らしい。つまり中央銀行が自ら国債のようなものを発行してドル(米国債)を買い、しかも逆ザヤ(通貨安定証券の利払い>米国債の利子受け取り)になっているということである。日本の反リフレの強硬派が聞いたらひっくり返りそうな話である。

韓国におけるこれらの事実は国債の直受けや上記のような異例の手法による中銀の赤字が(少なくともすぐには)制御不能なインフレに繋がるわけではないという意味での実証としては重要かもしれない。「中央銀行のバランスシートが毀損? So what?」を地でいっている感じだろうか?(韓国だから「So what?」ではなく「ケンチャナヨ」か?)


又、金融政策では無いが日米英で不況の発端となった住宅バブル崩壊対策としては住宅購入促進策をとると共に、それで足りない分は政府系金融機関(大韓住宅保証)が直接買い入れることによって需要を無理やりつくりだすという住宅市場対策も検討(実施?)しているようである。

前回のQE2に関する考察では、QE2は住宅市場を回復させることはできなかったと指摘したが、韓国はより直接的な総需要対策でバブル崩壊を防いでいるとも言える(崩壊しなければバブルでないとの定義に立てば、バブル自体を防いでいる?)。

そしてその結果としてサブプライム危機後に世界がデレバレッジに励む中、家計債務を順調に(?)伸ばし続けることに成功している。


で、これらの「正しい」政策は韓国経済にどのように寄与してきただろうか?


インフレ率については、インフレターゲット実施後はレンジをそれほど大きく外れることなく推移している。 しかし以下の記事にあるようにターゲットとしているコアCPI(日本でいうコアコアCPI)は目標レンジにある程度納まっていても、コアCPIにカウントされない食料品などは前年比11%以上(@2010年10月 - OECD平均 1.7%)伸びており、絶対値としても2009年の購買力平価(PPP)ベースで、「韓国の豚肉、牛肉価格はG7平均の3倍以上、鶏肉も1.4倍に達する。オレンジとバナナはG7平均の1.5〜2倍。ビール、コーヒー、スナック菓子の場合、G7諸国との比較で最も高かった。」という状態である。 また、住宅バブルの影響もあり、マンション家賃はOECD加盟国で2番目に高いようだ。 そしてインフレ率が高いこともあり、国際労働機構(ILO)の調べでは韓国の実質賃金の上昇率(2007-2010)は先進国中最低水準だったらしい。

衣食住が生活の基本であることを考えれば一人当たりGDPでは未だG7に追いついていない(日本の半分程度)状況下では暮らしが楽とは決して言えないだろう。

韓国食品価格上昇率11%、OECDで3番目に高く (2011-1-7)

【ソウル7日聯合ニュース】経済協力開発機構(OECD)が7日までにまとめた昨年11月の物価動向によると、韓国の食品価格は前年同月比11.2%上昇し、上昇率は加盟国のうち トルコ(12.4%)、エストニア(11.7%)に次いで高くなった。韓国の食品価格上昇率はOECD平均(1.7%)も大きく上回り、深刻な水準となっている。

 一方、韓国の昨年11月の消費者物価上昇率は3.3%と集計された。加盟国のうちトルコ(7.3%)、エストニア(5.3%)、ギリシャ(4.9%)、メキシコ(4.3%)、ハンガリー(4.2%)に次いで高い。

 企画財政部関係者は、異常気象や国際原材料価格・原油価格の上昇が食品価格上昇を招いたと説明。政府は食品の同時多発的な値上げを防ぐ策を講じていると伝えた。
http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2011/01/07/0200000000AJP20110107001700882.HTML

韓国の食品物価・コア物価上昇、OECD平均上回る (2011-5-11)

【ソウル11日聯合ニュース】韓国の食品物価とコア物価の上昇率は、先進国に比べ特に高いことが分かった。
 現代経済研究院が11日に公表した報告書によると、2000〜2010年の韓国の食品物価指数平均上昇率は4.4%だった。経済協力開発機構(OECD)平均の2.8%、先進7カ国(G7、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、日本)平均の2.1%を大きく上回っている。
 エネルギーと食品を除いたコア物価の平均上昇率も韓国は同期間2.6%で、OECD平均(2.3%)、G7平均(1.7%)より高い。韓国の平均消費者物価指数(CPI)上昇率は、OECD平均(2.7%)、G7平均(1.9%)を上回る、3.1%を記録した。
食品物価が相対的に高いのは、肉類、果物類など消費者が多く買い求める食料品の価格がすべて高いため。2009年の購買力平価(PPP)ベースで、韓国の豚肉、牛肉価格はG7平均の3倍以上、鶏肉も1.4倍に達する。オレンジとバナナはG7平均の1.5〜2倍。ビール、コーヒー、スナック菓子の場合、G7諸国との比較で最も高かった。
 コア物価の高さは、教育費と住居費の上昇率が要因と分析された。コア物価の13.2%を占める全教育機関への支出は、韓国は国内総生産(GDP)の7.0%で、G7平均(4.6%)、OECD平均(5.7%)を大きく上回る。コア物価の10.0%を占める住居費支出を見ても、マンション家賃がOECD加盟国で2番目に、オフィス家賃は6番目に高かった。
http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2011/05/11/0200000000AJP20110511002400882.HTML

韓国 賃金 3年連続 下落 − 下落速度も先進27ヶ国中‘最高’ (2010-12-16)

 国際労働機構(ILO)が28ヶ先進国の最近3年間 実質賃金上昇率を分析した結果、韓国が最低水準であることが分かった。

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 フルタイム勤務労働者に占める低賃金労働者の比率でも、韓国は25%台を記録し、米国を抜き比較対象13ヶ国の内で最高を記録した。

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 国際労働機構は「韓国政府と経済界が危機に対応する過程で、仕事場分割を積極的に実施したことが実質賃金削減として現れ、非正規職比率が40〜45%まで増加し賃金上昇率と生産性増加率との格差を拡大した」と明らかにした。
http://news.livedoor.com/article/detail/5213064/


で、経済自体はどうかといえば実質経済成長率では97年の危機以来平均して5%程度とかなり高い実績を残している。日本同様に人口問題(少子高齢化問題)を抱えている事を考えれば、非常によいパフォーマンスと言える。
但し、これは一人当たりの名目GDPでは韓国は依然として日本の半分程度であること(日本46千USD / 韓国23千USD)や、2008/9年に通貨危機に見舞われ、米中日と通貨スワップ協定を結んだりして危ない橋を渡ることになった事等も考慮する必要があるだろう。


サムソンを初めとする輸出企業は通貨安もあって順調に世界市場におけるシェアを伸ばしてきたが、結果として輸出依存度は80%超と非常に高くなっている。その伸びのかなりの部分は中国向けであり、中国経済への依存度も高そうである。 又、最新の統計ではGDPはプラス成長だが、GNPはマイナス成長だったとの記事もあった。解釈が難しい所であるが、国民にとっては良い話では無さそうである。

韓国の国民総所得が2年ぶりに減少に転じる (2011年06月08日)

 韓国銀行が8日に発表した「2011年第1四半期国民所得」によると、第1四半期の実質国民総所得(GNI)は貿易条件の悪化により前四半期より0.1%減少した。GNIが減少するのは2009年第1四半期にマイナス0.2%を記録して以来2年ぶりとなる。
 実質GNIは国民が国内と海外で生産活動により稼いだ所得の実質購買力を現わす指標だ。実質GNIが減少したのは購買力が下落し国民の体感景気が悪化したことを意味する。
http://japanese.joins.com/article/598/140598.html


韓国経済を評価する時に問題となるのは統計データに信じられないようなものが混じっていることである。韓国の失業率は3%強とされているが、一方で大卒の就職率が55%というような記事も見かける。この二つが論理的に両立しないわけでは無いが、現実的にはどちらかの数字はおかしいだろう。


以上のような韓国経済の現況が、そのリフレ的な金融政策の成果なのかどうかは評価が難しい。韓国は97年の通貨危機後、IMFによる半強制を契機に、企業構造改革、金融改革、労働市場改革、公共部門改革に取り組んできており、実は構造改革的にも(ある意味)先進国であり、良くも悪くもその経済への影響も併せて考慮しなければならない。


ただ、いずれにしても韓国経済を評価するにあたって本当に重要なのは、過去の実績より将来の展望だと筆者は考えている。筆者にはどうしても現在の韓国の政策が長期的に維持可能とは思えない。過去の日米英の住宅バブルについて、「正しい金融政策を取っていれば軟着陸可能だった。正しい政策で軟着陸さえしていればバブルですらなかった」という見方もあるが、筆者はそうは考えないし、同様に韓国の現在の対策はバブルの軟着陸ではなく、国民に負担を掛けながら破綻を先送りしているだけに見える。


逆に言えば、もし韓国がこのままの政策を維持し、バブル崩壊も起こさず、しかもG7諸国に一人当たりGDPで追いついてくるなら、それはすばらしい政策・手腕だったということになるが、韓国はそのような至難の業(筆者の目から見れば)をやり遂げることが本当にできるのだろうか?