近年の自殺者数の急増についての考察 - 2

前回に続き、もう少し日本の自殺率の推移についての話を続けたい。


前回は男性・女性を併せて考察し、1980年の自殺率を景気に中立的な自殺率の基準と考えると2008年の3万人超という自殺者数はこのトレンド上にあり、1980年から2008年までの自殺者数の増加は人口動態(少子高齢化)によって説明できるのではないかと言うことを図示してみた。


しかしこれを男女で分けて見てみれば少し違う絵が見えてくる。

以下は前回提示した1980/1990/2000年の性別・年代別の自殺率を実際の人口分布の推移に掛け合わせて推計した仮想自殺者数のグラフを男女別に作成したものである。


女性のデータを見ると分かるのが、女性の自殺者数も高齢化による影響は受けて絶対数はわずかに増加しているが、年代別の自殺率と全体に高齢化している人口分布から予測される自殺者数と比較すると、実際の自殺者数が予測値(トレンドライン)を下回り続けていることである。

これは女性の場合高齢化による影響や景気の影響を相殺する形で趨勢的に自殺率が減少していることを示していると考えられる。 


これを上記の前回の考察と併せて考えれば、1980年と2008年が同一トレンド上に位置していたとしても、女性の自殺率が趨勢的に減少した分だけ男性の自殺率は趨勢的に増加していることになる。実際に上掲のグラフも男性の自殺率の増加が甚だしいことを示している。


この解釈としては男性の自殺率はより景気の影響を受けやすく、2008年は1980年トレンド上に乗っていたとしても趨勢的な自殺率の低下分を差し引けば、やはり不況期の自殺率水準であるという説も成り立ちそうであるし、それ以外にも女性の自殺率の景気動向に影響されない趨勢的な低下傾向のように景気動向に影響されない男性の自殺率の趨勢的な増加傾向が存在するという説等も考えられるが、今回参照した単純な数量データからはどちらともいえなさそうである。




ただ、もう一つデータを見ながら気付いた事は、俗に言う団塊の世代の少し前辺りの年代の男性の自殺率は景気等の影響を他の年代より受けやすいのではないかと言うことである

以下は1955年以降の5年毎の男性の年代別の自殺率を重ねて表示した図であるが、特徴的に自殺率が増加している年代に赤丸をつけてみた。20代の自殺率が増加しているのは1955/60年のデータであり、40代後半から50代前半にピークが形成されているのが1985年、そして50代後半にピークが形成されているのが2000年のデータである。これらはぴったりと一致するわけでは無いが、概ね1930年代後半から1940年代前半生まれの世代に該当する。




この傾向が有意な意味を持つのかどうかは不明であるが、もし有意な意味をもつとすればこの世代については現役時代には高度経済成長を体験し、更に現在は「逃げ切り世代」と目され、恵まれた世代であったという評が多いが、それはそれで決して楽では無かったということかもしれない。