近年の自殺者数の急増についての考察

日本の自殺率は他国と比較し昔からかなり高い部類に入るが、特に1998年以降は3万人を大きく超えており、それまでの水準が2万人から多くて2万5千人レベルであったことを考えると1998年に急激な悪化をもたらす何かが発生したように見える。

この増加の原因についてはWikipedia等では「経済・社会的な要因」が指摘されており、筆者も大筋で異論はないが今回は少し違う視点から考察を加えてみた。


自殺率の一般的傾向として、女性より男性が、若者より高齢者の自殺率が高いことが知られている。

例えば以下は自殺が急増する前の1990年の性別・年齢毎の自殺率のグラフであるが、明らかにその傾向が見て取れる。


定義上必然的に各年代の自殺者数は、上記の各年代の自殺率と各年代の総人口を掛け合わせたものになる。以下に同じく1990年時点の各年代の人口分布と、その人口分布を上の自殺率と掛け合わせた各年代の自殺者数の図を示す。



ここで注目したいのは年代ごとの人口分布が、自殺者数分布に大きく影響を与えているということである。 1990年の例で見れば、自殺者数が最も多いのは50台であるが、自殺率が高いのはより高齢の年代であり、50台の自殺者数が最多となったのは人口が自殺率が高い高齢者よりも多かったからということになる。


このことを単純に考えると、日本の自殺者数は例え性別・年齢別の自殺率に全く変化が無かったとしても、人口のボリュームゾーンである団塊の世代が高齢化すれば、それに従って増加していくと推測される。この人口動態による影響は1998年以降の自殺者数にどの程度の影響を与えているだろうか?


この関係を分かりやすくするため、1980年、1990年、2000年の性別・年齢別自殺率を1980年以降の各年の人口分布に掛け合わせた、仮想自殺者数を計算してみた。


上記の図の非常に大雑把な解釈としては1990年のトレンドが好況時の自殺者数の基準線、2000年のトレンドが不況時の基準線、そして1980年のトレンドがその中間の基準線と見ることも可能なように見える。

そう見た場合、1998年の自殺率の大幅増加は恐らくは経済的要因(長く続いた好況から不況への急激な移行)によるものと言えるが、その後の約10年間は絶対数としては変わらないものの、傾向としては徐々に中間的な基準線へと回帰してきているように見える。(例えば1980年の各年代ごとの自殺率を2008年の人口分布に掛け合わせれば約33,000人となり、現実の自殺者数を越えている。)


よってこれら人口動態の影響を考えると1998年の自殺者数は確かに不況による影響が強く出たものであったが、ほぼ同じ自殺者数でも2008年の自殺者数は景気に対してかなり中立的であるという解釈も可能という事になる。(これは経済的原因での自殺者が少ないという意味ではもちろんなく、景気循環の中での平均的なレベルになっているという意味。残念ながら好況時であっても経済的原因の自殺者数がゼロになるわけではない。)


但し、上記の解釈は性別・年齢等の影響を非常に大雑把に見たものでありもう少し細かく各性別・年代の自殺者数の推移を見てみると、違う解釈も成り立ちそうである。次回は今回と少し違う解釈についても書いてみたい。



(追記) ちなみに何故日本の自殺率の水準が他国と比較して高いかについては結局のところ日本人の性格・国民性に主要因があるのではないかと思う。

こういった問題を国民性のせいにするのは少し安易ではあるが、例えばこういうデータがある。

Japan enjoyed the highest life expectancy among OECD countries, at 82.7 years for the whole population.

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When asked, "How is your health in general?", 33% of people in Japan reported to be in good health, much lower than the OECD average of 69% and the second lowest rate in the OECD.


http://www.oecdbetterlifeindex.org/countries/japan/

これは先日OECDが発表した「Better Life Index」の説明にあったデータであるが、日本人は長寿世界一である一方、健康に対する自信という意味では、OECD最下位圏(下から2番目)の自信しか持っていないということを示している。

健康に対して過剰な自信を持たないことが長寿に繋がっているといえるかもしれないが、いずれにしても日本人は全体的、客観的には明らかに自信を持ってよいポイントでも各個人の主観的には不安を常に感じているということであり、このような不安感が自殺率を底上げしているのは十分にありうるだろうし、これを呼ぶとすればやはり「国民性」という事になるだろう。