若年層失業率の増加とデフレの関係について

デフレの弊害として若年層の失業率増加が挙げられることがある。 


確かにデフレが経済を縮小させ続けるなら新たに社会に出てくる若者の仕事が不足し、結果として若年層の失業率増加の要因になるという話は分かりやすいが、そのことを示す実証データが提示されているのを見かけることは無い。 そこで、自分でデータを集め、少し検証してみた。


残念ながら筆者が見つけられた範囲では若年層失業率のデータはまとまった物が少なく、思ったような検証が難しかったが、とりあえずeurostatでEU各国の2008年と2010年のデータを見つけることができたのでこの数値を使って、インフレ率と若年層失業率の増加率の関係を見てみることにした。(2008年は11月、2010年は恐らく年平均データ)


まず各国の若年層失業率(この場合は25歳未満)を図示すると以下の通りとなる。(米国、日本についても参照としてできるだけ時期の近いものを追加した。)


まず明らかなのはEU圏の殆どの国の若年層失業率が日本と比べて遥かに高いことである。 
但し、失業率は統計の取り方や産業構造等様々な要素が絡むため、絶対値を比較することによって特定の事象の影響を評価するのは難しい(絶対値に意味が無いわけでは無い。為念)。 


そこで、次に若年層失業率を全体の失業率で割ったものを比較した。


この比較では各国の差がかなり縮まる。これは若年層失業率が一般失業率より高いのは日本だけに見られる特殊事情では無いということを示している。 又、ここでも日本の倍率は比較した30国中ドイツに次ぐ2位であり、殆どの国より低い。


次に2008年から2010年への変化率を示してみる。


殆どの国で2008年から2010年にかけて若年失業率が増加しているが、これは主にリーマンショック後の失業率の増加に連動したものと考えられる。この比較でも日本の増加率が他国と比較し、特別高い兆候は見られない(13位/30カ国)。 

ここでこの若年層失業率の増加率を2009年のインフレ率とプロットすると以下のようになる。


日本の増加率が他国と比較し特別高い兆候が見られないことからも予測されることであるが、ここでも2009年のインフレ率が2008年から2010年にかけての若年失業率の増加に強く影響したという傾向は見られない。
例外的に殆ど若年失業率が増加しなかったドイツ、オーストリア、ルクセンブルクの3カ国のインフレ率も0.0%〜0.4%程度であった。


よって少なくとも上記の観察からは、日本の若年層失業率の増加が他国と比べて特別厳しい状況にあるという事も、その原因がデフレであるという事も見て取れないということになる。

又、失業率の増加が遅行指標であるとの仮定を置いたとしたとしても、過去数十年間低インフレの常連国であり続けてきた日本とドイツの若年層失業率が、絶対値、割合共に他国よりも低いことを考えると、いずれにしても低インフレ・デフレが若年層失業率の増加に決定的な役割を果たしてきたとは考えにくい。


「デフレが若年層失業率を悪化させている主要因だ!」というストーリーは一見説得力もあるし、一般人に対するアピールとしても有効なように思え、高い「マーケティング能力」を感じさせるものであるが、残念ながらそれ以上のものではなさそうである。