松尾匡教授の「思考実験」について

松尾匡教授が「ちょっと思考実験してみよう」と題して、国債の日銀引き受け批判を批判されているが、なにかおかしい。 該当部分を引用してみると。

 政府支出資金を作るために、国債の日銀引き受けをするとして、それを「物価連動国債」でやったらどうなるでしょうか。つまり、満期が来て政府がおカネを返すときの金額が、インフレになったらその分膨らむ仕組みの国債ですね。こいつを発行して、日銀に買取らせて、日銀は無からおカネを作って政府に渡す。
 で、期限が来たら、また物価連動国債で借り換えをするわけです。
 これ、インフレになったら、日銀のバランスシートの資産側が膨らんでいきます。ハイパーインフレにでもなろうものなら、日銀の資産額が爆発します!


 国債の日銀引き受けと聞いたとたん、「日銀のバランスシートが毀損する」→「通貨の信認が失われる」→「ハイパーインフレになる」と言い回る人たちは、これ、どう評価するんでしょうね。
 どれだけ日銀引き受けを続けても一向にインフレにならないということになりませんか。
http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay__110414.html


この場合、「日銀の資産が爆発する」=「政府の借金が爆発する」ってことで、その爆発した借金を「また物価連動国債で借り換えするわけ」らしい。むしろこれでインフレにならないという理屈が良くわからない。

単純化すれば10兆円の物価連動国債が100兆円になり、期限が来れば国が借り換え用に100兆円の物価連動国債を発行して日銀がそれを買い取るということになる。これを繰り返してれば最終的には市中に出回るマネーの量が「爆発」するしかなくなる。(日銀が内部留保を無限につんでいけば別だが、)。 


マネーの量が「爆発」しても日銀のバランスシートさえ毀損しなければインフレにならないと言う理論でもあるなら別だが、そうでない限りマネーの量が「爆発」すればインフレになるという予測は容易に成り立つし、人々がそういう風に考えれば、インフレは更に後押しされるだろう。


この思考実験は教授の説明とは逆に「日銀のバランスシートが毀損しないようなメカニズムを取ったとしても、日銀の国債引き受けがインフレを起こすルートを完全に防ぐことはできない」と言うことを示しているに過ぎず、「日銀の国債引き受けがインフレを起こさない」ということ示しているわけでは無いということになる。


また、後段では通貨の信任問題自体について

通貨の裏付けが何であるかなんて、実はあまり大事な問題ではないのです。みんなが「問題だ」「問題だ」と思うから、ホントに問題になってしまうニセ問題なのです。

と切って捨てているが、そもそも「信任」を問題としているのに、「人々がそれを問題だと思わなければ問題では無い」みたいな理論は無意味なように思われる。


松尾匡教授は「マルクス経済学者」だそうだが、社会主義国家の計画経済ならともかく、現実の日本経済に於いて、なぜみんなが国債の日銀引き受けを「問題だ」と考えているのかを理解せずに、それは「ニセ問題」だと主張しても、結局「ホントに問題になってしまう」ことは避けられないはずである。