分かる人にしか分からない金融政策は機能するのか?

最近の二つのエントリー()に関して、コメント欄でerickqchan様とかなり色々と議論させていただいた。

erickqchan様は以前からサムナーの論文やブログを読みこんでおられ、むしろ筆者の誤解に対する様々な指摘を頂いたという方が適切かもしれないが、結局のところ筆者は理解が深まった部分はあったものの、エントリー内で指摘したリフレ政策、名目GDP目標政策への懸念 は払拭されなかった。


リフレ政策は「分かる人には分かる」ものらしいが、その線で行くと筆者は「分かる人」ではないらしい。


ただ、仮に理論的にリフレ派が正しいとしても、その理論が「分かる人にしか分からない」のであれば、その様な政策は機能するのだろうか?


市場メカニズムの優れている点は経済を構成する最小単位である所の「個人」はその様な理論を「分かる」必要が全くないことである。人々は目先の個人的な効用の増大をとりあえず目指していれば、それが「見えざる手」によって市場全体の効率化へとつながっていく。 

よって結果が正しいか間違っているかはともかく市場メカニズムによる経済成長は短期的には非常に頑健である。つまりこの市場メカニズムによる循環的な景気回復を補佐するような金融政策であれば、金融政策自体を「分かる」必要はそれ程ない。通貨の価値がある程度担保されるという信頼があればそれで十分である。


しかし金融政策、特に人々の「期待」の管理が重要な金融政策、では人々がどのようにそれを受け止めるかが重要となる。その政策が国債の日銀引き受けのように「通貨の価値が損なわれるのではないか?」という懸念を産むようなものであればなお更である。 そしてそのような金融政策が「分からない」ことは「不安」につながるはずである。


「不安」はそれ自体が経済成長を阻害する。 それは(分かる人にしか分からない)理論的な正しさとは無関係である。


そう考えると分かる人にしか分からないような金融政策の効果は本来なら分かる人にとっても分からないはずではないのだろうか?



(追記)
更に言えば英国の量的緩和はインフレ目標がある程度信頼されていた英国においてもそのレンジ(1.0 - 3.0%)を上回るインフレを(高失業率のまま)引き起こしたし、信頼されていた英中銀はそれに対して手を打てないでいる。(そして記者からは「インフレ目標はフィクション(作り話)だったのか?」と責められたりしている。)
国債の日銀引き受けみたいなことをやれば当然それ以上の影響が懸念されることになるというのは決して心配しすぎとは言えないだろう。