震災後の円高の背景について

震災直後から円は急騰し、本日は76円台をつけ、戦後最高を記録した。 これだけの急激な変動は投機筋の思惑によるところが強いと考えられる。 そしてこの事態に為替介入の準備は既に万全との見方もあり、既にそれを警戒した動きもあるようである。


非情な投機筋、非常事態の日本に追い打ち 介入・G20協調急務
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110317/fnc11031721140027-n1.htm

Japanese Ministry of Finance: ‘Ready for Battle’
http://blogs.wsj.com/marketbeat/2011/03/17/japanese-ministry-of-finance-ready-for-battle/


このようなときに足元を見てくるようなファンドは長期的に見ても市場の混乱要因となるだけなので是非日銀砲で吹き飛ばして欲しいところであるが、それはそれとして、こういう事態で円高になるのはやはり基本的には日本の経済、特に輸出企業の競争力が強いという理解が背景にあると筆者は理解している。(それが俗説だという経済学者の方もいるようだが、)



まず短期的には海外からの資金引き上げ(リパトリシエーション)が起こるのではないかという期待(見込み)が引き金になっているという見方はその通りだと思うが、一方で円資産を処分して日本から出て行く資金も存在するはずである。 アジア通貨危機の引き金となったのは海外資金の逃避であったと言われているが、日本の場合は危機においてむしろ通貨が上がっている訳である。 これは日本が世界一の債権国であるからであり、円が危機につよいということを示していることになる。


では今後の見込みについてはどうだろう?


日本はプラザ合意後ほぼ一貫して円高トレンドを維持しながら、一時的な不況期を除いて輸出入額を伸ばし続けてきており、経常収支も大幅な黒字を維持している。 今回の震災でこの基調に大きな変化があるだろうか?


短期的には輸出入共に減少するだろうが、長期的には輸出入に大きな変化はないだろう。 震災によって日本の国際競争力が大きく毀損したわけではないからである。


では資本収支はどうだろう? 今後日本は国内で大規模な再建を行っていかなければいけない。 被災地だけでなくその他の津波が予測される地域でも大規模な投資が必要となる可能性がある。 そうなれば海外への直接投資は減る可能性があるのではないか。


しかし経常収支がそのままで海外投資が減少すれば、計算があわなくなる。 よって日本が輸出競争力を維持したまま海外への投資を減少させることは普通はできないことになる。


つまりますます円高になる可能性があるわけである。 (その背景については以下の過去記事内の「趨勢的経常黒字論」参照)


(参照)経常収支のインバランスは持続不可能なのか  - 円高への潜在的圧力は何か?
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20101102/1288751397


実はこれには抜け道がないわけではない。 中国のように中央銀行が為替市場にどんどん通貨を供給すればよい。 つまり海外直接投資が減った分を外貨準備(米国債等)の増加で補えばよいわけである。


国債をがんがん発行して日銀に引き受けさせてもある程度似たような効果が得られる可能性がある。但し、この場合は外貨準備(米国債)の裏づけのない円が大量に市場に出回ることになり、どこかで為替の下落とインフレが同時に起こる可能性も考えなければならない。 外貨準備があればそれを使って円を買い支えればいいわけであるが、単に国債を発行して通貨を増発した場合、短期的にはコントロールが難しくなる。 もちろん以前書いたとおり日本の経済構造を考えれば、そのまま国家破綻したりすることは無いとは考えているが、短期的にでもインフレがコントロールできなくなる事態は望ましいものではないだろう。


(参照)リフレ政策で日本は破綻するのか?
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110113/1294942665


何れにしろとりあえずはG7会議で為替介入への理解を得るのが重要だろう。 協調介入なら尚よいが、理解さえ得られれば日銀だけでも十分に対応可能なはずである。 さすがに現状で為替介入に表立って反対する国は無いと思うが、どうだろうか?



(追記)
記事を投稿した時点で既にG7緊急電話会議で協調介入が合意されており、そして日銀は朝9時から早速介入を実施し、一気に81円台まで下げたようである。


協調介入まで踏み込むとはやや意外であったが、声明文でも市場の不安定要因となっている投機筋の動きへ懸念を示しており、今回の日銀砲で痛手を負ったであろう投機筋も当面はおとなしくしているのではないだろうか。


18日電話会議後のG7財務相・中銀総裁声明文
http://jp.wsj.com/Finance-Markets/Foreign-Currency-Markets/node_202679

  我々、G7の財務大臣・中央銀行総裁は、日本における最近の劇的な出来事を議論し、我々の日本の同僚から、現在の状況、当局がとった経済・金融面での対応についての説明を受けた。


 我々は、こうした困難な時における日本の人々との連帯意識、必要とされる如何なる協力も提供する用意があること、日本の経済と金融セクターの強靭さへの信認を表明する。


 日本における悲劇的な出来事に関連した円相場の最近の動きへの対応として、日本当局からの要請に基づき、米国、英国、カナダ当局及び欧州中央銀行は、2011年3月18日に、日本とともに為替市場における協調介入に参加する。我々が長らく述べてきたとおり、為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与える。我々は、為替市場をよく注視し、適切に協力する。