イギリスはインフレ? → インフレです!(訂正)スタグフレーションかもしれません・・・・

最後に実際のデータを少し見てみる。(といっても以前のエントリーで使用したグラフの使い回しであるが、)


まずリーマンショック前の2008年1月から2010年末までの日英両国のインフレ率をプロットすると以下の通りとなる。


http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110129/1296346704

又、高橋洋一教授がDiamond Onlineの記事で紹介されていた日米英の「期待」インフレ率の推移は以下の通りとなっている。



高橋教授はこのグラフに対して、

すでにリーマンショック以降、米国では予想インフレ率が上昇したと書いたが、それは他の先進国でも同じだ。実は日本でも少し予想インフレ率は上昇している。その程度はどの程度金融緩和したかに依存している(図2参照)
http://diamond.jp/articles/-/11260?page=3

と説明されているが、少なくともBSを同様に拡大した米英間の差とBSの拡大では大差がある日英間の差はほぼ同じであり、「その程度はどの程度金融緩和したかに依存している」は言いすぎである。 

又、比較図で「=0」にされている2008年9月は最初の図を見てもわかるとおり英国でインフレ懸念が高まっていた時期であり、実際のインフレ率も5%とインフレターゲットのレンジから考えても非常に高い水準であった。高橋氏の2008年9月を「=0」としたグラフでは「0」に戻るのが良い事のように見えるが、実態としては戻りすぎとも言える。


さらに2008年から2010年のインフレ率と失業率のデータをクロスプロットしてみる。 これはリフレ派がインタゲの根拠に良く使うフィリップス曲線と同様のものを見ていることになる。 (米英のプロットは逆Z型を示しているが右下の折り返しはリーマンショック、左上の折り返しは量的緩和実施にほぼ相当する。)


http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110124/1295915664


これらの図で明らかなのは量的緩和を実施した米英ではリーマンショック後のディスインフレ&失業率増加が顕著なことと、その後のインフレ率回復時期に失業率はフィリップス曲線に沿って下降してはいない(=失業率は悪化したままインフレ率が上昇している)ことである。


このグラフには載っていないが、米国はその後失業率に若干の改善の兆しが見えており、最新のデータでは8.9%程度となっている。 但しリーマンショック前の失業率と比較すると約4%上昇したままであり、一方で日本の失業率も1月には4.9%まで下がっておりリーマンショック前の+1%のところまで回復している。 


http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110124/1295915664


一方で英国は失業率が底をうったのかどうかすら明らかでは無い。 更に悪天候の影響もあり肝心の経済成長率も2010年第4四半期にはマイナス成長となってしまった。 悪天候の影響を除外しても±0程度であっただろうという見通しもでており、経済が依然として非常に弱い状態である事がはっきりした。

1月のインフレ率が4%に達したことから金利引き上げによるインフレ抑制が近く行われるのでは無いかとの観測も出ていたが、この経済成長では金融緩和を続けざるえず、当面インフレの上昇は続きそうである。 しかし量的緩和の後始末とも言える緊縮財政は今後も続ける方針で、スタグフレーションがいよいよ現実のものとなりかけているという見方も過度に悲観的とはいえないはずである。

第4四半期英GDPは予想外のマイナス成長、利上げ観測後退 (ロイター 2011/01/26)

 英国の消費者物価指数(CPI)上昇率は3.7%と、イングランド銀行(中央銀行)の目標のほぼ倍に達しており、この日の予想外のGDP統計でスタグフレーション(景気沈滞化のインフレ)の見通しも浮上、イングランド銀行は深刻な政策ジレンマに陥る見通しだ。
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-19193120110125


上記の事実を踏まえれば過去2回のタイトルは以下の通り訂正した方が良いかもしれない。

(訂正前)
イギリスはインフレ? → インフレです!

(訂正後)
イギリスはインフレ? → スタグフレーションかもしれません・・・・


(参照)
英国インタゲの非インタゲ化?
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110131/1296477560


中央銀行はどこまで自国のインフレ率を左右してきたのか?(英国の高インフレの構図)
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110129/1296346704


フィリップス曲線について (1)
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110124/1295915664


フィリップス曲線について (2)
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110127/1296171004