イギリスはインフレ? → インフレです! (2)

一応、内容についても検証してみる

 見過ごせない記事があった。朝日新聞2月11日付朝刊に載った「英インフレ、生活直撃」という見出しの記事だ。冒頭、「世界的な食料や原油の値上がりで英国のインフレが進んでいる。昨年12月は消費者物価上昇率が前年同月比で3・7%に達し、先進国では異例の高さになった」との書き出しで、「英国の中央銀行であるイングランド銀行はインフレを2%以内に抑えるのを目標としているが、これを13カ月連続で上回った」と報じている。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2135


まず、イングランド銀行のインタゲについて書いた部分を見てみる。

もう一点、「イングランド銀行はインフレを2%以内に・・・」の部分も不正確だ。同行の目標数値は、インフレ率を1〜3%(平均で2%)以内に抑えること。このことは、わざわざイングランド銀行に取材しなくても、ホームページに書いてある。

この指摘自体は正しい。 だが、この部分は正確には「イングランド銀行はインフレを1〜3%(平均で2%)以内に抑えるのを目標としているが、これ(3%)を13カ月連続で上回った」であり、実際には朝日の記事よりもより高水準で推移している訳である。 

この事を分かっていて上記のような言い回しの指摘をしているのならこれこそミスリーディングであろう。


又、インフレ自体も本当はたいしたことがないとして、

英国事情に通じている人なら、英国の消費税(付加価値税)が'10年1月に15%から17・5%に引き上げられたことを覚えているだろう。消費税率を引き上げれば、それに応じて物価も上がる。


 だから、物価の本当の動きを見るためには、消費税率変更の影響を除いた数字が必要だ。そして、統計局のサイトには、消費税率変更を控除した消費者物価指数(CPIY)の上昇率が、ちゃんと載っている。その数字を見ると、'10年1月以降は2%を少し下回っており、12月に2%となっている。

 記事が指摘しているように、一部の食料品が値上がりしているのは事実だろう。だが、食料品はもともと値動きが激しく、天候などに大きく左右される。そうした一部の物品の値上がりと、物価全体が上がるインフレは別物だ。にもかかわらず、なぜこうした誤解を招きかねない記事が書かれたのだろう。


インフレで苦しんでいる人々がもっとも直接的に影響を受けるのは食料品や衣料品等のの生活必需品の物価上昇である。 2010年12月のインフレ率を見ると食料品(Food)は5.9%, 衣料品(Clothing and footwear) は10.3%となっており、英国民は生活実感としてはCPI (3.7%)の数字よりもかなり高いインフレに直面していることとなる


細かな点を言えば食料品には消費税はかかっておらず、それが直接的な物価上昇要因にはなっていない。 又、食料品や衣料品のインフレ率はCPI計算時の主要項目となっており、実体としても統計上でも別物ではない。


CPIが3.7%でも定義を変えれば2%程度のインフレであり、一部物品の値上がりに過ぎないとするような言説こそ誤解を招きかねない記事のはずである。 


(追記)
そもそも実際に生活している人間が日々支払っている価格以外の計算上の「何か」が「本当の物価」であるような言説には疑問を覚える。たとえば田中秀臣教授の「いわゆる「スタグフレーション」仮説雑感」 では

 例えばいま二種類の「スタグフレーション」論があるようだ。ひとつは資源価格高騰で「インフレ」になって同時に高失業率のまま経済は停滞しているというものである。これはいわばインフレデフレをどう定義しているかという問題(CPIをコアでみるかコアコアでみるかという程度)であり、露骨に「インフレ=悪」というイメージ操作をともなっている。
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20110304#p1

と述べられている。  


CPIをコアでみようがコアコアでみようが高失業率のままで日々の生活に掛かるお金が増えれば人々は困るし、景気が回復しないなかでの物価高はイメージ操作するまでもなく「インフレ=悪」であろう。 実際にインフレが生活を直撃している人に、「それは見かけ上のインフレで、本当の物価は安定しているから大丈夫ですよ」と言って納得する人は居ないのではないだろうか?