スタグフレーションはありうるんじゃないか?

agoraで池尾和人教授が「スタグフレーションはあり得るのか」と題した記事を投稿されている。

その中で

ただし、逆にいうと、実質的に経済全体の所得が減っているにもかかわらず、従前と同じ実質的な生活水準を維持することを求められるような制度的保護や交渉力を国民のかなりの部分が有しているのでなければ、コストプッシュ型のインフレーションは起きえない。そして、コストプッシュ型のインフレーションが起きえなければ、(経済停滞の下では定義的にディマンドプル(demand pull)型のインフレーションはありえないので)スタグフレーション(不況下のインフレ)も起こりえない。単なる経済停滞があり得るだけである。

http://agora-web.jp/archives/1250154.html

として、日本ではスタグフレーションは起こりえないとの説明を示されている。 (記事の後半には特定の条件下でのスタグフレーションの可能性についても最後に述べられていますが、)


本当だろうか?


この場合に想定されているインフレは国内経済におけるポジティブフィードバックループ(インフレ→賃金上昇→インフレ)によるものと思われる。 


確かにその定義によれば景気停滞時にインフレが発生する可能性は低い。



ではその他に景気停滞下でのインフレ率の上昇が起きるルートはないのだろうか?


例えば、他国でインフレやバブルが発生した場合はどうなるのだろう。


他国のインフレは長期的には為替によって調整され、国内のインフレ率に影響を与えないとの見方もありうるが、短期的には輸入を通じて国内の物価に影響を与えるはずである。 そして実際に価格の高騰(バブル)が資源、食料などのコモディティ価格に発生しており、世界中のインフレ率を上昇させている。


一方で、確かに生活に必要なコモディティ価格が上がれば、可処分所得が変わらない場合、他の消費財への支出を切りつめる必要があり、その他の消費財の価格は下がるかもしれない。 

しかしそれは消費財の利益率に余裕がある場合で、既に採算ラインぎりぎりなら価格は下げられないし、むしろ原材料費の高騰分を転嫁する必要がでてくる。その場合、需要減に合わせて販売量を減らすか、その販売量で採算が合わないなら廃業するしかない。 また、仮に他の消費財市場で価格調整(下落)が発生したとしても、元々需給が悪化している日本ではその下落幅がコモディティ価格の上昇を相殺する程の規模になる補償はなく、トータルで見ればインフレ率が上昇する可能性は高い。(逆にコモディティ価格の上昇を相殺しきるほど為替が上がれば又、マイルドデフレ不況になる。 この可能性も否定できない???)


よってコモディティ価格の上昇は、コモディティ以外への支出を減らしてその市場で需給を悪化させ、景気後退を招くとともに、その価格上昇の直接的なインパクトによりインフレ率を上昇させる可能性があると考えられる。 厳密な定義(GDPデフレータで見たインフレ率は・・・等)はともかく、これはスタグフレーションといってよいのではないだろうか? 


(追記)
単純化するとこんな感じ↓

コモディティ価格の上昇 → 資源・食料の輸入価格の上昇

コモディティ価格の上昇 → 発展途上国のインフレ率の上昇 → その他の輸入品価格の上昇


必需品を含む輸入物価の上昇 → その他消費財への支出減 → 需給悪化 (→ 価格低下?)

輸入品以外の市場の需給悪化 → 景気後退

(資源・食料・輸入品の価格上昇 > その他消費財の価格低下)


(追記2)
これは輸入型インフレ・デフレが存在しうるのかどうかという問題でもある。

筆者は円高を基点とした内外価格差調整型デフレは存在する(した)と考えており、一方で、世界的な流動性過剰を基点としたコモディティバブル輸入型インフレについてもありうると考えている。

但し、コストプッシュインフレやデマンドプルインフレはポジティブ・フィードバック・ループを介して国内でも自己強化されていくが輸入型インフレ・デフレは国内では自己強化されないので直接的に日本でのインフレ高騰につながる可能性は低く、不況下でのインフレ率上昇が起こったとしてもスタグフレーションと呼べる程悪化するかどうかは微妙かも知れない。 その場合、マイルドデフレ時代に続いてマイルドスタグフレーションの時代がやってくるということになるのだろうか?