リフレ政策は本気で「韓国」を目指す気なのか!?

半年ほど前にこのブログを始めたときに最初に書いたエントリーは「リフレ政策は「韓国」を目指す?」だった。

まあ半分ネタというか皮肉だったわけだが、大和総研のチーフエコノミストでありWikipediaによるとリフレ派の一人とされている原田泰氏が、2月9日に大和総研のサイトにて「金融政策は韓国に学べ」というレポートを本当に書いている。


その中では98年以降の改革の効果を否定した上で「韓国からまず学ぶべきは金融政策」として、以下のように述べている。

世界金融危機の兆しが明らかになった2007年8月のパリバショック以降、韓国は中央銀行が直接コントロールできるお金の量、マネタリーベースを現在までに 44%増大させた。その結果、為替レートは一時 36%も下落した(現在では 19%の下落)。為替レートの下落とともに、輸出が急増して過去のピークを越え、それに応じて生産も回復した。生産は 09 年9月には過去最高値を超えるまで伸び、これまでのトレンドに戻っているように見える。消費者物価上昇率も3%を超える可能性が出てきたので、マネタリーベースを安定させ、2010年 7月、11月には政策金利を引き上げている。実質金利はリーマンショック以前、プラス2%程度だったが、ショック後現在までほぼ一貫してマイナスである。
http://www.dir.co.jp/souken/research/report/harada/11020901harada.html

この人は経歴から考えても実際に2007年以降に韓国で起きたことを見てきているはずなのに、都合の良い部分以外は全部忘れてしまったのだろうか?


2008年の韓国の為替レートの下落についてはWikipediaにも「韓国通貨危機」として項目が設けられており、その主な要因はざっと

リーマンブラザースが破綻、その余波を受ける形でAIGなどの金融機関が急激に経営危機に陥った(リーマンショック)。それに伴い金融市場がクレジットクランチ(信用収縮)に見舞われると市場からアメリカの通貨のドルの流通が滞り、インターバンク市場ではドル不足を招くこととなった。その煽りを受けて最もドル不足の影響を受けたのが韓国の通貨「ウォン」であった。この理由として、韓国の国際収支が2006年頃より悪化しており、特に資本収支における短期対外債務の比率が急速に高くなっていたことがあげられる。その短期対外債務の多くが償還時期を迎えた2008年9月に、先述のドル不足と相まってウォン相場は急落し、韓国のメディアでは「9月危機」との報道がなされた。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9F%93%E5%9B%BD%E9%80%9A%E8%B2%A8%E5%8D%B1%E6%A9%9F

というようなもので、金融政策の成果でもなんでもない。 また為替レートの急落は輸出の急減と同時に起こっており、「為替レートの下落とともに、輸出が急増」したわけではなく、輸出が増加している局面では為替レートはむしろ上昇(回復)している。

原田氏は結語でも「為替レートとは通貨と通貨の交換比率だから、マネタリーベースを 44%増加させた国の通貨が 15%しか増やさない国の通貨に較べて大きく下がるのは当然だ。」と書いているが、当然も何もそもそも韓国における通貨危機の発生にそのような因果関係は存在していない。

更に現実には9月危機で収まらず、

10月に入ると、韓国の金融市場における外貨の需給関係の逼迫は高まり、10月12日には韓国政府は企業の海外投資の自粛など厳しい外貨規制を敷くようになった。しかしその後もウォン相場の下落は止まらず、10月28日には終値が1ドル=1465.9ウォンとアジア通貨危機以来の安値を記録していた。ウォン安はその後も進行し、一時は1ドル=1500ウォンを超える水準まで下落した。

と、状況は悪化し、最終的にはアメリカ・中国・日本が巨額の通貨スワップ協定を締結して事態の収拾に乗り出し、どうにか再度IMFのお世話になる事態は避けられたわけである。

その通貨スワップ協定も延長を繰り返し、日本との協定(増額分)が終了したのは、確か2010年になってからで、中国とはまだ残っているはずだ。


そこまで綱渡りした結果、確かにウォン安になって輸出は伸びたが、国民が直面している現実はといえば

韓国 賃金 3年連続 下落 − 下落速度も先進27ヶ国中‘最高’ (2010-12-16)

国際労働機構(ILO)が28ヶ先進国の最近3年間 実質賃金上昇率を分析した結果、韓国が最低水準であることが分かった。

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フルタイム勤務労働者に占める低賃金労働者の比率でも、韓国は25%台を記録し、米国を抜き比較対象13ヶ国の内で最高を記録した。

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国際労働機構は「韓国政府と経済界が危機に対応する過程で、仕事場分割を積極的に実施したことが実質賃金削減として現れ、非正規職比率が40〜45%まで増加し賃金上昇率と生産性増加率との格差を拡大した」と明らかにした。

http://news.livedoor.com/article/detail/5213064/

というようなもので、こちらも見習いたくなるような要素はなさそうである。 

又、名目GDP(USドル)は2007年の水準にも戻っていないし、円がウォンに対して72%上昇したということは2007年に1000万円分の貨幣をウォンで持っていた人は今では580万円分のお金しかもっていないという事になる。フローが若干増えてもストック的には大赤字であろう。


そして金融緩和のリスクの一つである不動産バブルについてもしっかり発生しており、いつ崩壊してもおかしくない、あるいは既に崩壊が始まっているという識者も多い。 確かIMFも懸念を表明していたし、当の韓国の経済研究所も以下の通り警告している。

「はじけたら日米より致命的」経済研究所が韓国の不動産バブルを警告
韓国の不動産価格の上昇率が、日本や米国で不動産バブルが崩壊した当時よりも深刻な状況にあることが分かった。

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産業銀行経済研究所の報告書によると、年所得に対する住宅購入価格比率(PIR)は、08年の時点で6.26倍で、同年の米国(3.55倍)日本(3.72倍)よりも高い数値。

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中でもソウル地域は12.64倍を記録し、米国ニューヨーク(7.22倍)サンフランシスコ(9.09倍)よりもはるかに高い数値となった。PIRの数値が12.64倍というのは、韓国人がソウルのアパート(109平方メートルの高層アパート)を購入するためには、年間の所得をすべて投資した上で少なくとも12年以上かかることを示している。

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2010&d=0324&f=business_0324_222.shtml

バブルは事後的にしか分からないという人も居るが、上記の状況は普通に考えてかなり立派なバブルといっていいのではないだろうか?


一応良い面?も上げておくとサムソンはウォン安を武器に2010年には売上、利益とも過去最高を記録し、系列企業も含めれば全上場企業の25%の利益を一人で稼ぎ出したそうである。

サムスン最高益、売上高11.4兆円 10年12月期

韓国のサムスン電子は7日、2010年12月期決算の連結売上高が前期比12・8%増の153兆7600億ウォン(約11兆4400億円)、営業利益も58・1%増の17兆2800億ウォンになる見通しだと発表した。聯合ニュースによると、いずれも過去最高を更新する見込み。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110108/biz11010810430028-n1.htm

サムスン系の純利益、全上場企業の25%占める

昨年のサムスングループ系上場企業の純利益が、有価証券市場に上場する企業全体の純利益の25%を占めると集計された。また、5大グループ系列企業の純利益は全体の6割を超えており、一部財閥企業への利益の偏りが拡大していることがわかった。
http://japanese.yonhapnews.co.kr/economy/2010/06/06/0500000000AJP20100606001000882.HTML

サムソンのような強力な輸出企業の存在は通貨が安泰とはいえない韓国において非常に重要であるが、一社がこれだけの割合を占めるとなるとリスクは相当高いといわざる得ないだろう。筆者には望ましい国の形とはとても思えない。


いずれにせよリフレ政策を支持するのはいいとしても、いい加減、マネタリーベースの増加とインフレ率の高さだけを見てそれらしい国を探し出して持ち上げるのはやめたらどうだろう? 量的緩和を実際に行った国(英・米)もあるんだからプロならそちらを検証して欲しいものである。