中央銀行はどこまで自国のインフレ率を左右してきたのか?(英国の高インフレの構図)

フィリップス曲線についての記事を書いたときにあらためて気づいたのだが、日本と英国のインフレ率は少なくとも過去3年間については非常にきれいにシンクロしている。


英国はリーマンショック以降積極的な金融緩和策をとり、2009年には量的緩和政策を実施したが、その金融政策が短期的に該当国のインフレ率のみに影響を与えている気配は殆ど見えない。 英中銀が量的緩和を実施・拡大した後、英国のインフレ率は確かに上昇しているが、日本のインフレ率も同時期に上昇に転じている。


但し、よく見ると両データはシンクロしながらも徐々に差が広がっている。 そこで次に日英間のインフレ率の差がどう推移してきたかを見てみる。


この図では日英間のインフレ率の差が2008年から2010年初頭までは拡大しつづけ、その後に停滞、縮小したという長期的(中期的?)なトレンドが見て取れる。 ここで興味深いのはこのトレンド上では英国の量的緩和だけでなく、世界経済に大きな影響を与えたリーマンショックの影響も(少なくとも短期的には)殆ど見ることが出来ないことである。 

つまり、それらのイベントの影響は短期的には日英のシンクロをもたらしているグローバルな世界経済情勢に取り込まれており、日英間のインフレ率の差のトレンドに直接的、かつ短期的な影響を殆ど与えていないということになる。


筆者は英国の高インフレ率は量的緩和の弊害によるものと考えていたが、これらの図を見ると別の解釈もあるような気がする。

つまり英国の量的緩和は世界的な金融危機を緩和して世界全体のデフレ圧力を減じることによって、英国だけでなく日本の物価上昇にも同程度貢献したが、結果として英国独自の長期的なインフレ圧力が顕在化し、英国は4%近い高インフレに苦しんでいる、という見方である。


この英国の長期的なインフレ圧力が何かといえば、恐らくその要因の一つに2007年からのポンド下落があげられるのではないだろうか。(筆者は日本のデフレもプラザ合意後の円高が要因の一つと考えているので自然とそこに目が向くわけであるが、)

ポンド・円相場は2007年の250円代から2009年の120円代まで急激に下落しており、輸入物価が英国でインフレ圧力になってるのは間違いないだろう。 


[:W450]
http://zai.diamond.jp/list/fxchart/detail?pair=GBPJPY&time=1mon#charttop



又、もう一点はっきりさせておきたいのは日英間のインフレ率の差が拡大している期間(つまりリフレ派的にみれば英中銀がちゃんと仕事をしている期間)は日英間の失業率の差も同時に広がっているということである。


ちなみに横軸を日英のインフレ率の差、縦軸を失業率の差としてプロットすると、かなり強い相関が確認できる。 この相関はフィリップス曲線とは逆にインフレ率が相対的に高くなると失業率も相対的に高くなることを示している。



ただこのプロットは2008年から2010年の3年間という短い期間が対象であり、しかもこの期間はほぼ一貫して英国がインフレ率・失業率共に相対的に上昇させてきており、相関として一般的なものかどうかは疑問である。 

ただ一つ言える事は少なくともこの3年間に限っては英国と比較すると日本は「相対的には」インフレ率が抑制された中で失業率も低下するという好状況にあったということであり、金融政策が国の経済状況に大きな影響を持つとしても量的緩和を行った英中銀より日銀のパフォーマンスが悪かったということはデータからは見て取れない(むしろ逆)ということである。