高橋洋一氏の「「デフレ人口原因論」の間違い」論の不思議 (3)

高橋氏のデフレ人口原因論批判については氏が提示したグラフの解釈を中心に既に過去に何度か取り上げた(参照)のだが、今回のDiamond Onlineの記事「日本のデフレは人口減少が原因なのか 人口増減と「物価」は実は関係がない」では新たに一つグラフが追加されていたので、それについても少し考察してみた。


以下がそのグラフであるが、「耐久消費財の価格が人口要因で下がったとしても、その余裕で非耐久消費財の需要が高まり、非耐久消費財の価格が上がる」という理論上での予測が実際に起きていることを示している図らしい。



 一方、個別の価格、例えば耐久消費財の価格は平均の物価に比して、最近時点でより価格低下が大きくなっており、これは需要減のためと思われるが、その原因として人口要因は否定できない。もっとも、その場合、理論が想定するように非耐久財価格が、平均の物価より高めになっている。(図5、図6参照)

http://diamond.jp/articles/-/10728?page=5


まず気になったのは何故二つのほぼ同じような図で対象となる期間をずらしているのか(上:1970〜/下1980〜)という点であるがそれにはとりあえず置いておくとして、非耐久消費財の価格トレンド(赤線)に大きく影響を与えていると思われるのは2006年及び2008年のピークデータであるが、これらの非耐久消費財の価格上昇は本当に耐久消費財の価格低下と関係があるのだろうか?


同期間の消費者物価の推移を示した下図を見る限り、2006年の非耐久消費財の価格上昇は生鮮食品を含む食料とエネルギーの影響が大きく、又、2008年については油価の高騰(とそれに起因した世界的な食糧危機)がその要因であることは明らかなように思われる。 



Everybody Gets What They Want様より拝借)


ここで、より分かりやすくするため、高橋氏のグラフを基にデフレが始まった1994年移行のデータのみを同一期間、スケールで重ね合わせてみた。 



この図ではっきり分かるのは耐久消費財は常に、そして大幅に非耐久消費財の価格動向を下回っていることである。

つまり、物価が下落・停滞している期間の個別価格の動向を耐久消費財と非耐久消費財に分けてみた時、非耐久消費財がほぼ±1%程度で推移しているのに対して、耐久消費財は-2〜-6%で推移しているという事であり、このデータを見る限り耐久消費財の相対価格の下落は物価が下落する方向への一貫した圧力となっている。


仮に高橋氏が主張するように日銀に物価をコントロールする力が備わっており、日銀にデフレの「責任」の一端があったとしても、実際に生じた物価下落の直接的な「原因」は、このグラフを見る限り非耐久財の個別価格の下落にあるということは明らかなように思われるのだが、氏の理論では「責任」が日銀にある限り、「原因」も日銀以外にはあってはいけないのだろうか?


参照:高橋洋一氏 ニュースの深層「白川日銀「量的緩和」はどれほど効果があるか」について
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20101208/1291813935